グランプリは「ハエから飛び出る寄生菌」の一枚!
この写真は、スペイン・バレンシア大学(University of Valencia)の進化生物学者、ロベルト・ガルシア=ロア(Roberto García-Roa)氏が、南米ペルーにあるタンボパタ国立保護区(Tambopata National Reserve)の熱帯林にて撮影した一枚です。
ロア氏は「この写真には、数千年におよぶ進化がたどり着いた、巧みな征服の様子が描かれている」と話します。
この寄生菌の正式な学名は「タイワンアリタケ(Ophiocordyceps unilateralis)」といい、主にアリを標的とする菌類です。
1859年に初めて発見され、熱帯雨林の生態系に分布しています。
タイワンアリタケはまず、胞子として樹上から落下し、側を通りがかったアリの体表に付着します。
すると菌は、アリの硬い表皮を溶かす酵素を分泌して、体内に侵入。
体の中で増殖をつづけ、終いには、アリの体重の半分がタイワンアリタケで占められるまで増大するのです。
さらに、タイワンアリタケは体だけでなく、宿主の心までハッキングし、自分たちの繁殖に適した場所へとアリを誘導させます。
その様子からタイワンアリタケは、研究者の間で”ゾンビ菌(zombie fungus)”とも称されています。
その後、タイワンアリタケは宿主を内側から食べ尽くし、アリの頭から飛び出るように、細長い子実体を成長させます。
そして、胞子を周囲にまき散らし、再び繁殖へと向かうのです。
宿主が、寄生から死亡に至るまでには4〜10日を要します。
また、今回の写真が示すように、タイワンアリタケが標的にするのはアリだけではありません。
審査員を務めたクリスティ・アンナ・ヒプスリー(Christy Anna Hipsley)氏は「ロア氏の撮影した印象的なイメージは、まるでSFの世界のようだ。
ハエの死が菌類に命を与えるという、生と死の両方を同時に表現している」とコメントを寄せています。
他の受賞作品もユニークな写真ばかり
このほか、審査委員会は4つの部門を設定し、それぞれ受賞作を発表しました。
たとえば、「自然界の関係(Relationships in Nature)」部門では、東フィンランド大学(UEF)のアルウィン・ハルデンボル(Alwin Hardenbol)氏が撮影した「セイヨウナナカマドの実を食べるキレンジャク」が受賞しています。
キレンジャク(Bombycilla garrulus)は、実の発酵により生産されるエタノールを処理するために肝臓が大きく進化しており、そのおかげで、1日に数百個の実を食べることができます。
また、「絶滅危機の生物多様性(Biodiversity Under Threat)」部門では、ワシントン大学(University of Washington)のサマンサ・クレリング(Samantha Kreling)氏が撮影した「バオバブの木陰にたたずむアフリカゾウ」が受賞しました。
これは、南アフリカにあるマプングブエ国立公園が干ばつに襲われた際に撮影された一枚です。
バオバブは樹齢2000年を超えることも普通で、水が不足したときに備え、樽のような幹に大量の水分を蓄えています。
写真では、アフリカゾウの親子がその水を飲むために、バオバブの樹皮を剥いだ様子が捉えられています。
一方で、クレリング氏によると「普通なら、バオバブの木は回復が早いのですが、近年の温暖化の影響で、アフリカゾウによる(樹皮を剥ぐ)被害に対応しきれなくなっている」という。
そのため、この写真は、バオバブの木を絶滅から守るための行動が必須であることを強調するものです。
このように、コンテストの写真は、美的で驚くべきイメージの提示だけでなく、「自然の保護」を訴える目的も担っています。
審査員の一人であるジェニファー・ハーマン(Jennifer Harman)氏は、次のように述べています。
「多くの優れた写真を審査することは、すばらしく、またやりがりのある経験でした。
今年のコンテストに参加されたすべての方に感謝するとともに、BMCの読者の皆さんが、これらの写真を見て、その背景にあるストーリーを発見し、色々と自然について考えを巡らして頂けたらと願っています」