脳に電極をささない「体に優しい方法」で脳活動を解読する
私たちの脳は巨大な生体電子機械であり、あらゆる情報処理が脳内ネットワークを走る電気を介して行われています。
人間が言語を話したり聞いたりするとき、脳内では活発な電気活動が観測されます。
そのため以前から、脳の活動を測定することで、人間が話したり聞いたりした言葉を特定する試みが行われてきました。
しかし既存の脳活動を言葉に変換する技術の多くは、脳に電極を埋め込むなど、危険な脳外科手術を必要としていました。
たとえば「マウス」という言葉を聞いた時に発生する脳波を測定する場合、脳に電極を刺した場合にはかなり正確な測定データが得られます。
一方、脳波や脳磁場など頭部の外側かの脳活動を測定する場合、危険な手術は必要ないものの、ノイズが多く正確さに欠けるデータしか得られませんでした。
そこで今回、「Meta AI」社の研究者たちはAI技術を用いてノイズを乗り越え、体に負担のない方法(脳波と脳磁場)でも脳活動から言葉を読み取れる方法を開発することにしました。
(※脳波は脳に発生した電気活動を測定し、脳磁場は電気活動の発生と同時に形成される磁場を測定しました。どちらも頭部を切開することなしに、頭を覆う測定器で調べることが可能です)
開発にあたってはまずAIに学習教材を与えるために、被験者が特定の音声を聞いたときに観測された脳活動を、53の言語から5万6000時間に及び収集しました。
教材が集まると研究者たちAI(ニューラルネットワーク)に対して、被験者が効いた音声と、その瞬間に発生した脳活動の関係を対応付けるように学習を繰り返させました。
たとえば上の図では「once upon a taime(むかしむかし)」という音声を聞いた時に発生する脳活動を測定し、脳活動と音声の関係を対応付ける学習が行われる過程を示しています。
ニューラルネットワークはコンピューターの仮想空間に脳を真似たニューロンを設置し、学習を繰り返すことで正しい判断ができる疑似的な脳を作り出すことで機能します。
学習を繰り返すことでニューラルネットは優秀さを増し、得意とする分野では人間を遥かに上回る判断力を持つこともあります。
今回の研究でAIに求められたのは、人間には判別不能な膨大な脳波や脳磁場のデータを人間の音声に結びつけるという難事でした。
AIはとりとめのない数値データと人間の音声を結びつけることができたのでしょうか?