免疫システムの困った「チクり魔」
現在のような高度な免疫療法が開発される以前、主ながん治療の方法の1つとして免疫分子「サイトカイン(IL-2)」を血中に注射する方法が用いられていました。
サイトカイン(IL-2)には免疫細胞を活性化する効果があり免疫細胞が、がん細胞を攻撃して排除するのを助けてくれます。
また上手くいった場合の効果も現在の免疫療法に引けをとらず、一部の患者ではがんの寛解を達成したことが報告されています。
平易な言葉で表現するならば、サイトカイン(IL-2)は免疫細胞という「怖いオニイサン」を呼び込む「チクり魔」的な存在とも言えます。
しかしサイトカイン(IL-2)を用いた方法には大きな弱点がありました。
サイトカイン(IL-2)によって活性化された免疫細胞はがん細胞だけでなく、体の正常な臓器までも見境なく破壊してしまう場合があったため、毒性が高く使えるの人は限られていました。
つまり既存の方法では「チクり魔」が暴走して「怖いオニイサン」が無実の細胞までも殺し始める危険性があったのです。
新型コロナウイルスによる死因の1つに、免疫の過剰反応によって、全身でさまざまな種類のサイトカインが暴走してしまう「サイトカインストーム」があったことを覚えているひとも多いでしょう。
サイトカインは免疫細胞にウイルスやがん細胞と戦う力を与えますが、多すぎれば自分自身の体を傷つけてしまうのです。
(※サイトカインはさまざまな免疫分子の総称であり、今回の研究ではそのサイトカインの中のIL-2と呼ばれるものが扱われています)
またサイトカイン(IL-2)は分解されやすいという特徴もあり、長期にわたり高容量を注射する必要があるうえ、使い続けていると次第に効果が低下していくという欠点もありました。
サイトカイン(IL-2)を安全に使用するには、働く場所を限定し、その有害性を抑える必要があったのです。
ただサイトカインを血管に注射すると必然的に全身にまわってしまうため、解決は困難を極めていました。
しかし最近になって意外なところからヒントが得られました。