トラウマ体験の記憶は、長期的に持続化しやすくなる?
今回の実験では、81人の健康な成人男女を対象に、感情的に中立な一連の画像(ボタン、傘、時計など)を繰り返し見てもらいました。
その中で、脅威条件付けを誘導するために、特定の画像に続いて、体に害はないが不快になる程度の電気ショックを与えます。
ここでは、6回の画像表示のうち、4回で同じ画像の後に電気ショックを与えました。
実験終了後の7日間、被験者にはインターネット上の日記を介し、電気ショックと対になった画像に関して「侵入記憶(intrusive memory)」が発生したかどうかを実験者に報告してもらいました。
侵入記憶とは、自分が望んでいないにも関わらず、強制的に頭の中に浮かんでくる記憶のことで、PTSDの主要な症状として知られます。
そして、8日目に再び実験室に来てもらって、同様の画像を見てもらいました。
この間、研究チームは、被験者の生理的な指標である「皮膚コンダクタンス反応(電気皮膚反応とも)」を測定しています。
その結果、電気ショックとセットになった画像は、その他の一連の画像に比べて、被験者により侵入記憶を生じさせる傾向があることが判明しました。
被験者は、実験後の7日間で、「電気ショックと対になった画像を無意思的に思い出すようになった」と報告しています。
また、2度目の実験で同じ画像を見せると、被験者は、他の画像に比べて「発汗量が増える」など、生理的な反応も示していました。
加えて、81人の被験者のうち59人を追跡した調査では、侵入記憶が最長で1年間も持続することが証明されています。
これは特に、過去のトラウマ体験の回数が多く、日常的な不安レベルが高い参加者において顕著でした。
以上の結果から、研究チームは「脅威条件付けは、長期にわたって持続する侵入記憶を形成する可能性が高い」と結論します。
トラウマ記憶は「社会的サポート」で防げるのか?
これと並行して、研究チームは、トラウマ体験後の社会的サポートが、PTSDに繋がる侵入記憶の発生を防ぐことができるかどうかを検証しました。
実は、81人の被験者には、最初の実験後に「献身的な社会的相互作用」か「非献身的な社会的相互作用」のいずれかをランダムに受けてもらっています。
前者では、たとえば、実験者が積極的なコミュニケーションやアイコンタクトを取り、被験者に体調を尋ねたり、今何が起こっているかの説明を施します。
後者では、アイコンタクトやコミュニケーションは一切取らず、被験者に何の説明やサポートも与えませんでした。
チームは当然ながら、献身的なサポートを受けたグループにおいて侵入記憶が防がれると予想しました。
ところが蓋を開けてみると、どちらのグループでも、実験後の反応に有意な差は見られなかったのです。
これについて、研究主任のリサ・エスピノーサ(Lisa Espinosa)氏は「どのような社会的サポートがトラウマ体験後に効果的であるかを、今後も調べ続ける必要がある」と述べています。
実際、家族や親しい友人によるサポートがPTSD患者の症状を緩和させられることは、これまでの研究で明らかになっています。
しかし、臨床現場での応対や治療を向上させるには、医療従事者や介護者など、見知らぬ人による効果的なサポートの方法を確立する必要があるでしょう。