シジュウカラたちは鳴き声を組み合わせて文章を作れる
文学小説や歌の歌詞、そして日常的な会話に至るまで、私たち人間は多彩な言語表現を生成し、情報伝達を行っています。
しかし私たちの多彩な言語表現が、2つの要素を1つにまとめる力によって成り立っていることはあまり知られていません。
たとえば川端康成の『雪国』の冒頭には
『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』
という表現がみられますが、この文章の「国境の長いトンネル」も2要素を1つにまとめる作業の積み重ねによって構成されています。
具体的には「国境の長いトンネル」という表現はまず「国境の」と「長いトンネル」の2要素が1要素にまとめられたものであり、そのうち「長いトンネル」もまた「長い」と「トンネル」の2要素がまとまって1つになった表現となっています。
世の中には巧みな言語表現が数多く存在しますが、2要素を1要素にまとめる力は全てに共通するものとなっています。
このようなまとめる能力は言語学の世界では「併合」とよばれており、人間の言語能力の中核で、人間だけが持つ能力であると考えられていました。
しかし鈴木俊貴さんたちはこれまでの研究で、シジュウカラたちにおいて人間と似た「単語を文法に従って組み合わせて文章にする能力」があることを発見していました。
シジュウカラは仲間に警戒を促すときには「ピーツピ」という鳴き声を上げ、集合を促すときには「ヂヂヂヂ」という別の鳴き声を上げます。
そして仲間と一緒に天敵のモズなどを追い払いたいときには、2種の鳴き声を組み合わせ「ピーツピ・ヂヂヂヂ」という順番で鳴きます。
「ピーツピ・ヂヂヂヂ」を聞いた仲間たちは警戒するように集まりはじめ、天敵の役割をするモズの模型に対して激しく威嚇行為を繰り返します。
しかし鳴き声の順番を引っくり返して「ヂヂヂヂ・ピーツピ」という音声を聞かせた場合には、シジュウカラたちは警戒してあたりを見回すことも、音源の近くに集まることもありませんでした。
この結果は、シジュウカラたちには鳴き声を組み合わせた文章があり、その組み合わせかたを決める文法のようなものも存在する可能性を示します。
しかし聞き手となるシジュウカラたちが2種類の鳴き声をまとめた「ピーツピ・ヂヂヂヂ」を、本当に1まとまりとして認識(併合)しているか、それとも異なる2つの音声の連続したパターンとして認識しているのかは不明でした。
『雪国』の冒頭の文章で例えるならば、併合ができる人間は「長いトンネル」という表現を受け取った場合、脳内に延々と続く山を掘り抜いた道という、新たな1つのイメージを浮かばせることが可能です。
しかし併合ができない場合「長い」何かが存在し、加えて「トンネル」が存在するというように2つの意味が分離したままとなってしまいます。
意味が分離したままであってもパターンを覚えることで窓を閉めるなど適切な行動をとることが可能ですが、併合ができるかどうかの差は言語能力において決定的な違いとなります。
そこで鈴木俊貴さんらは今回新たに、シジュウカラたちの併合能力を確かめる実験を行うことにしました。
異なる鳴き声を組み合わせて文法通りに文章を作れるシジュウカラたちは、人間だけが持つとされた「併合」能力をも持ち合わせていたのでしょうか?
そして抽象的な概念でもある「併合」を、いったいどんな方法で確かめたのでしょうか?