適度な認知作業で「心のぶらつき」を増やすと、創造力がアップする?
バージニア大学の心理学者で、本研究主任のザック・アーヴィング(Zac Irving)氏は、次のように話します。
「もし、あなたが問題に行き詰まった場合、どう対処しますか?
おそらく、絵の具が乾くのをジッと見つめるような、退屈なことはしないでしょう。
その代わりに、散歩に出かけたり、庭でガーデニングをしたり、シャワーを浴びたりと、何か自分の心を満たすような気分転換を選択しないでしょうか。
これらの活動はすべて、適度に魅力的なもので理にかなっているのです」
今回、アーヴィング氏と研究チームは、2012年に発表された、「適度に認知負荷のかかるタスクをすると、創造性が高まる傾向がある」と指摘した先行研究をきっかけに、より深くこのテーマを追求することにしました。
本研究では、参加者に、レンガとペーパークリップの代替用途(本来の目的とは別の使い方)のアイデアを挙げてもらう創造力テストを実施します。
テストの前に、参加者は2つのグループに分けられ、それぞれ内容の異なる3分間のビデオクリップを視聴してもらいました。
一方のビデオは「退屈でつまらない」もので、2人の男性が洗濯物を延々とたたむ様子が映し出されます。
もう一方は「適度に魅力的」なもので、1989年のラブコメディ映画『恋人たちの予感(原題:When Harry Met Sally)』のワンシーンを流しました。
そこでは、メグ・ライアン演じる主人公の女性が、ダイナーでオーガズムを演じて周囲をドン引きさせます。
実験に使用したと思われるシーンがこちら。
ただ、アーヴィング氏は「私たちの目的は、どのような映像が創造力を高めるのに役立っているかを調べることではない」と説明。
そうではなく、「退屈なタスク、あるいは適度に魅力的なタスクをしているときに、マインドワンダリングが創造性にどう関与しているかを知ることでした」と続けます。
マインドワンダリングとは、「心の迷走」とも呼ばれ、過去を思い出したり、未来を想像したりして、現在とは違うことを考えている状態です。
私たちは、1日の約47%の時間をマインドワンダリングに費やしているといわれます。
ここでは、退屈なビデオと適度に魅力的なビデオを見ている人の「マインドワンダリングの頻度」を調べ、その違いが「創造力の向上」となんらかの関連性を持つかに注目しました。
また、実験にビデオを採用した理由については、「人々が実生活でも行う息抜きの一つだから」といいます。
ビデオを見た後、参加者はレンガやペーパークリップの代替用途を短い時間でリストアップするよう求められました。
それから、ビデオを見ている間、どれだけマインドワンダリングをしていたか(頭の中であるトピックから別のトピックへ、どれだけ自由に移動したか)について、評価付けしてもらっています。
これらのデータを分析した結果、『恋人たちの予感』のビデオを見た参加者は、退屈でつまらないビデオを見た参加者に比べて、より多くのアイデアを思い付くことが明らかになりました。
加えて、マインドワンダリングの頻度も、適度に魅力的なビデオを見た参加者の方が多かったのです。
このことから研究チームは、適度な認知負荷を要するタスクは、マインドワンダリングの頻度を増やし、それが創造力を一時的に高めている可能性があると結論しています。
ここで「適度な認知負荷を要するタスク」の具体例は明示されていませんが、おそらく、思考を自由にぶらぶらさせられる身体活動であれば、程度の差こそあれ、同様の効果が得られるはずです。
それが、シャワーを浴びたり、散歩に出かけたり、皿洗いをしたりといった何気ない日常行動なのでしょう。
アイデアが思いついたときに自分がよくしている行動をメモってみるのもいいかもしれません。
研究チームは今後、実験に採用するタスクをビデオ鑑賞からスケールアップさせ、マインドワンダリングを誘発しやすい行動を探っていく予定とのことです。