「ケミカルクリック」が行われる場所を製薬工場から患者の体内へ
2000年代初頭、クリックケミカルの有用性は化学者の間で広がり続け、ある種のお祭り騒ぎに近い状況が発生しつつありました。
しかし生物の仕組みを化学的に解明しようとする生化学の分野では、クリックケミカルの利用はイマイチでした。
問題は、クリックケミカルが生物にとって毒となる銅を使うことにありました。
死んだ細胞を分析することも意味あることではありますが、生化学者の多くは生きている細胞での実験を望んでいたからです。
そこで糖鎖の研究をしていたベルトッツィ氏は銅を使わない方法を探して、過去の文献を読み漁りました。
すると当時(2000年)から40年ほど前、1961年に書かれた論文において、クリックケミカルのシートベルト部分となる一方の腕の構造をリング状にすることで、極めて強い反応が起こると記されていたことを発見します。
そこでベルトッツィ氏は、上の図のように、結合部分の一方をリング状にした状態にし、生きている細胞でクリックケミカルが発動するかを確かめました。
結果は大成功であり、銅なしでのクリックケミカルを生きた細胞で実現させることに成功します。
またベルトッツィ氏の発見は、クリックケミカルの仕組みそのものを、医薬品として応用する道を開きました。
たとえば、クリックケミカルを起こす一方を、がん細胞などの病巣に結合させ、それと結合するもう一方にがん細胞を殺す毒を持たせます。
こうすることで、患者の体の中でクリックケミカルが発動し、毒をがん細胞だけに届けることが可能になります。
今後も、クリックケミカルは医学から材料まであらゆる分野に革命をもたらすでしょう。