ドラマや小説の「毒殺」のメカニズムとは?
ドラマや小説の「毒殺」のメカニズムとは? / Credit:Canva
chemistry

毒物学者がドラマや小説に登場する化学物質がどのように人を殺すか説明

2023.04.10 Monday

サスペンスドラマや推理小説などのフィクションの世界では、殺人の道具として「毒物」がたびたび登場します。

食物や飲み物に混入させるだけなので、自分が犯人であることを隠したいケースで多用されるのです。

ところがそれらドラマや小説の中では、事件の影響や犯人の動機に焦点が当てられ、毒物が被害者をどのように殺すのか詳しく説明されることは稀です。

そこでアメリカ・コロラド州立大学(Colorado State University)に所属する毒物学者ブラッド・ライスフェルド氏は、フィクションに登場する危険な化学物質が体内でどのように働くのか解説しています。

Poisons are a potent tool for murder in fiction – a toxicologist explains how some dangerous chemicals kill https://theconversation.com/poisons-are-a-potent-tool-for-murder-in-fiction-a-toxicologist-explains-how-some-dangerous-chemicals-kill-199251

『ブレイキング・バッド』に登場する毒物「リシン」

アメリカの人気テレビドラマシリーズ『ブレイキング・バッド』では、高校の化学教師がリシン(Ricin)入りの砂糖を準備し、お茶に混入させることで、ある女性を殺害しています。

リシンには全く同じ名前のサプリメントなどで売られている「リシン(lysine)」が存在しますが、物の「リシン(Ricin)」とは全く異なります。

この2つは異なる由来と作用を持つため、別の名前を付ける方が適切と考えられますが、なぜか特に問題にはなっていないようです。

今回解説する毒物の「リシン(Ricin)」とは、世界中の公園や庭、野山で見られるトウゴマの種子から抽出されるタンパク質です。

トウゴマの種子
トウゴマの種子 / Credit:Wikipedia Commons_リシン (毒物)

非常に強力な毒物であり、これが細胞内に入ると、毎分1500個の速さでリボソーム」と呼ばれる構造を不活性化していきます。

リボゾームはタンパク質を合成するという重要な役割を担っています。

生物に活動において重要なタンパク質の設計図はDNAにありますが、DNAから直接タンパク質を合成できるわけではありません。

DNAの情報をRNAに転写し、その遺伝情報をリボゾームが翻訳することで、タンパク質が作られるのです。

リシンはこのリボゾームを不活性化させるため、当然タンパク質合成も停止。最終的には細胞が死んでしまいます。

リジンによって吐き気や腹痛が現れる。最悪死に至る場合も。
リジンによって吐き気や腹痛が現れる。最悪死に至る場合も。 / Credit:Canva

リシンの人体における致死量は体重1kgあたり0.03mgと言われています。

ドラマのように経口摂取した場合、6~12時間以内に、吐き気、嘔吐、腹痛などの初期症状が現れ、脱水症状や腎臓・肝臓の障害へと発展。

摂取量によっては36~72時間で死亡してしまいます。

リシンを用いた事件は現代でも生じており、アメリカでは2013年にオバマ大統領宛ての封書から検出されたり、日本でも2021年に、ある女性が職場の同僚だった男性の水筒にリシンを入れたとして逮捕されたりしています。

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