『ブレイキング・バッド』に登場する毒物「リシン」
アメリカの人気テレビドラマシリーズ『ブレイキング・バッド』では、高校の化学教師が「リシン(Ricin)」入りの砂糖を準備し、お茶に混入させることで、ある女性を殺害しています。
リシンには全く同じ名前のサプリメントなどで売られている「リシン(lysine)」が存在しますが、毒物の「リシン(Ricin)」とは全く異なります。
この2つは異なる由来と作用を持つため、別の名前を付ける方が適切と考えられますが、なぜか特に問題にはなっていないようです。
今回解説する毒物の「リシン(Ricin)」とは、世界中の公園や庭、野山で見られるトウゴマの種子から抽出されるタンパク質です。
非常に強力な毒物であり、これが細胞内に入ると、毎分1500個の速さで「リボソーム」と呼ばれる構造を不活性化していきます。
リボゾームはタンパク質を合成するという重要な役割を担っています。
生物に活動において重要なタンパク質の設計図はDNAにありますが、DNAから直接タンパク質を合成できるわけではありません。
DNAの情報をRNAに転写し、その遺伝情報をリボゾームが翻訳することで、タンパク質が作られるのです。
リシンはこのリボゾームを不活性化させるため、当然タンパク質合成も停止。最終的には細胞が死んでしまいます。
リシンの人体における致死量は体重1kgあたり0.03mgと言われています。
ドラマのように経口摂取した場合、6~12時間以内に、吐き気、嘔吐、腹痛などの初期症状が現れ、脱水症状や腎臓・肝臓の障害へと発展。
摂取量によっては36~72時間で死亡してしまいます。
リシンを用いた事件は現代でも生じており、アメリカでは2013年にオバマ大統領宛ての封書から検出されたり、日本でも2021年に、ある女性が職場の同僚だった男性の水筒にリシンを入れたとして逮捕されたりしています。