死体発見のナンバーワンは「タヌキ」
死肉を食べ漁るスカベンジャーは、一見すると不気味に見えますが、病原菌の発生源となる死体を迅速に除去することで、生態系を守る重要な役割があります。
中でも、死肉食に特化したハゲワシは、死体の発見と消費能力に非常に長けた動物です。
また、彼らが死体めがけて上空を飛ぶことで、それを見た地上のスカベンジャーたちが死体の在り処を見つけやすくなっています。
一方で、日本の生態系にはハゲワシがいない上、機会があれば死体も食べる程度のスカベンジャーしかおらず、死肉食に特化した種がいません。
そのため、死体がどのような動物によって発見・消費され、どの程度の時間で消失するのか、よくわかっていませんでした。
そこで研究チームは、6月〜11月にかけて、日本の森林生態系にシカの死体44頭を設置し、自動撮影カメラを用いて、死体の発見〜消失までを観察。
その結果、設置した死体の88.6%が哺乳類によって最初に発見されていたことがわかりました。
また、哺乳類の中では、シカ死体の実に40.9%をタヌキが最初に発見しており、その発見時間の平均は3.3日でした。
この他にも、哺乳類ではツキノワグマやイノシシ、キツネ、テン、ハクビシンが、鳥類ではクマタカ、トビ、カラスが死肉を食べにやってきています。
加えて、哺乳類によるシカの発見には気温が大きく関わっており、気温が高いほど発見時間は短くなっていました。
これは、腐敗が早く進んで、臭いが広がるために、嗅覚の鋭い哺乳類が死体を発見しやすくなっているからと考えられます。
それから、シカの死体の消失時間は平均して7日でした。
これを世界各国の先行研究と比較してみると、26事例中18番目、さらに森林地域に限定すると15事例中8番目の消失速度でした。
ハゲワシのような死肉食に特化したスカベンジャーがいないことを踏まえると非常に早く、日本の森林は、健全な生態系を維持するのに十分な死体除去の能力を持っているといえます。
また、消失時間も気温が高いほど短くなることが判明しました。
この結果は、気温が高いほど変温動物である昆虫(とくにウジ虫)が活発になることで、死体の分解スピードも上がっていることを示唆します。
今回の研究は、専門的なスカベンジャーがいない日本の森林でも、哺乳類を中心に効率的な動物死体の処理・分解が行われ、健全な生態系が維持されていることが明らかになりました。
しかし一方で、本研究は、死体処理に大きく寄与しているはずの無脊椎動物(おもに昆虫)の影響が考慮されていません。
チームは今後、無脊椎動物による死体処理の定量化を進めるとともに、死肉消費をめぐる脊椎動物と無脊椎動物の関係性も明らかにしていきたいと考えています。