「涙」はどこから来て、どこへ行くのか?
まず、涙の基本的な流れについて押さえておきましょう。
涙は最初に、目尻の上部にある「涙腺」という場所で分泌されます。
分泌された涙は、目の表面全体を覆ったあと、目頭の方に向かい、「涙小管」という細い管を通って、「涙囊(のう)」と呼ばれる袋のような場所に入ります。
そこから、また「鼻涙管」という管を通り、「鼻腔」の方へ流れて、最後に鼻から排出されます。
よく、涙腺が蛇口なら、涙小管や涙囊がパイプで、鼻孔が排水口と表現されます。
また、涙の分泌量が多いと、パイプへ入る前に、瞳から直接落ちて頬をつたいます。
涙の成分は、水分、タンパク質、脂質、ムチン(高分子糖タンパク質)、電解質から成り、さまざまな働きを持ちます。
基本的には、涙の目的は、乾燥した目を潤すこと、老廃物を洗い流すこと、眼球に栄養を与えることです。
それでは、なぜあくびと同時に涙が出るのでしょうか?
あくびをすると涙が出る「3つの説」
実は、あくびと涙の関連性を調べる研究は歴史が浅く、完全に科学的な同意を得た理由というのはありません。
しかし、これまでの研究で、最も有力な3つの説が挙げられています。
仮説その1:脳を冷やすための「涙の放出」
近年、あくびには、脳を冷やして集中力を回復する機能があることが確実になってきています。
あくびにより「冷たい空気の吸入」と「口周りの筋肉のストレッチ」を同時に行うことで、脳への冷えた血液の流入を増加させ、体温調節をしていると指摘されています。
ですから、あくびは退屈のサインというより、集中力を回復させようとしている印と言えます。
これを踏まえて、専門家の一部は「あくびと一緒に涙も流すことで、余分な熱を放出し、脳の温度を下げているのではないか」と主張します。
仮説その2:顔の筋肉の収縮による「涙の押し出し」
私たちの顔には、数えきれないほど多くの筋肉が並んでいます。
あくびをすると、まぶたの周りの筋肉を含め、顔の筋肉の大部分がギュッと収縮されます。
すると、涙腺や涙囊に溜まっていた涙が押し出されて、強制的に涙が出るのです。
それから、もう一つの説明として、あくびにより筋肉が収縮している間、涙の排出が一時的にせき止められているという説もあります。
あくびは平均して5秒近く続くので、その間に分泌された涙が目の中に溜まり、あくび直後の筋肉の弛緩に伴って、涙が流れ始めるのです。
いずれにせよ、この2つ目の仮説は、筋肉の収縮という物理的な刺激を原因としています。
仮説その3:体の疲労による「涙の分泌」
3つ目の説は、涙の基本的な目的に最も近いものです。
疲労の蓄積や睡眠不足は、日常的な集中力の低下、目のかゆみ、ドライアイなどとして体にあらわれます。
すると、体は集中力を取り戻そうとしてあくびをし、それと同時に、涙を分泌して、目に潤いを与えたり、老廃物を排出しようとするのです。
いずれの説が正しいのか、あるいはそれぞれの説が少しずつ関連しあっているのか、現在のところまだ明確ではありませんが、私たちの体には「ホメオスタシス(恒常性)」と呼ばれる生理機能があり、常に体内のバランスを保とうとしています。
体温が上昇すると、汗を流して体を冷やし、正常な体温を維持するのは、その最たる例です。
涙もホメオスタシスの一機能と考えられるため、あくびと一緒に涙が出るのは、疲れや眠気に対する対処の可能性は高いでしょう。
身近な体の現象なのに未だにはっきりしていないというのは、ちょっと意外ですが、それが人体の面白いところかもしれません。