2000キロ以上の道のりを1年かけて移動していた!
ウナギは、産卵〜幼生の期間を「海」で、稚魚〜大人になるまでを「河川」で過ごすことで有名です。
たとえば、食用として大人気のニホンウナギは、日本から約2000キロ離れたマリアナ諸島の近海まで移動し、産卵することがわかっています。
その一方で、ヨーロッパウナギは、古代から食用として利用される長い歴史を持つにも関わらず、産卵場所が不明のままでした。
(本種の繁殖地を調べる試みは、なんと紀元前4世紀にまで遡るという)
1920年代になって、ようやく北大西洋に広がる「サルガッソ海」が産卵場所らしいことがわかってきましたが、ヨーロッパからどういう経路で、どのくらいの期間をかけて移動するかは、明らかになっていませんでした。
本プロジェクトリーダーで、イギリス環境庁の研究員であるロス・ライト(Ros Wright)氏は「ヨーロッパウナギは絶滅の危機に瀕しているため、その完全なライフサイクルを解き明かし、産卵場所を保護する取り組みが必要だ」と話します。
そこで研究チームは、2018年と2019年の11月に、大型のヨーロッパウナギのメス26匹にGPSタグを装着し、ポルトガルのアゾレス諸島から北大西洋に放流しました。
タグは6〜12カ月後に自動で外れて、その場所から位置データを送信するようプログラムされています。
その結果、26個中23個のタグからデータが取得され、うち6個がサルガッソ海にまで到達していることが判明しました。
また、これらのデータから、放流したすべてのウナギが一貫してサルガッソ海を目指して移動し、最終的な繁殖地に到達するまでに約1年かかっていることが明らかになっています。
加えて、タグが段階ごとに外れていくため、河川〜繁殖地までのおおよその移動経路も特定されました(下図を参照)。
ヨーロッパウナギの移動経路および期間の直接的な証拠が得られたのは、今回が世界初です。
産卵後、サルガッソ海で誕生したヨーロッパウナギの幼生は、北大西洋海流(North Atlantic Drift)の様々なルートに乗って、イギリス近海やヨーロッパの海域に戻って来ると考えられます。
そして、幼生はシラスウナギ(Glass eel、ウナギの稚魚段階のこと、透明で全長5〜6センチほど)となって河川を遡上します。
本研究の成果は、ヨーロッパウナギの繁殖地を特定し、本種が急激に減少した原因を解明するとともに、保護活動を進める上でも非常に重要なデータとなるでしょう。
研究主任の一人で、ロンドン動物学会(ZSL)のマシュー・ゴロック(Matthew Gollock)氏は「ヨーロッパウナギの個体数は、きわめて低水準にあり、そのライフサイクルを理解することで、この種の危機的状況に対処するための保全策を練ることが可能です」と述べています。
研究チームは今後、GPSタグのデータをさらに詳しく分析して、移動ルートの理解を深めつつ、サルガッソ海での繁殖地の調査を進めるとのことです。