「学習法の聖杯」を最新科学が解明! 間を置いて想起する
試験に合格したり新しいスキルを覚えたいと思っている人々にとって、効果的な学習法は魅力ある知識です。
また効果的な学習方法は古くから研究者たちの興味を惹き付けてきたテーマでもあり「学習法の聖杯」を発見するため、数多くの研究が発表されてきました。
しかし残念なことに、研究結果で明らかになった効果的な学習法をシステマティックに採用している人は極めて少数であり、いくつかの進学校や英才教育の現場など、限られた範囲でしか実践されていませんでした。
そのため「学習法の聖杯」は誰でも目にできる場所にありながら、限られたエリートが独占するという皮肉な状態にありました。
そこで今回、アイオワ州立大学の研究者たちは、過去100年間にわたり行われてきた学習効果にかかわる数百本に及ぶ研究を再分析することにしました。
すると学習法には2つの聖杯が存在することが判明します。
1つ目の聖杯:間隔をあける(スペーシング)
まず最初に有効であると確証が得られた「1つ目の聖杯」は、時間をかけて少しずつ学習する「間隔をあける」方法でした。
たとえばある医学生を対象にした研究では、手術トレーニングを1日で一気に学習したグループと、同じ内容を3週間をかけて少しずつ刻みながら学習したグループが比較されました。
すると、1日で一気に学んだグループよりも、3週間かけて学んだグループのほうが、2週間後と1年後に行われた両方のテストで優れた成績をとることが示されていました。
この結果は、全く学習量が同じであっても、学習のタイミングが成功に大きな差をうむことを示します。
しかし既存の常識では、間隔をあける学習は空白期に忘れるリスクが高まり、次の学習時には思い出すことからはじめなければならず、非効率的に思えます。
確かに間隔が年単位など長期の及ぶのであるならば、非効率です。
ですが適度な間隔(1日~数日)の場合には前回の内容を「思い出す」という過程がむしろ記憶を増強させる効果をうむのです。
また適度な間隔は学習した内容を脳に定着させる時間を提供してくれます。
脳は学習机を離れた後、たとえば休憩中などに、私たちが知覚できない無意識のレベルで新しい知識やスキルを既存の脳回路に接続する「統合」の過程を開始します。
統合によって私たちの脳は新たな知識やスキルを活用することが可能になり、より難しい問題を解けるようになったり、学んだスキルが上達していきます。
たとえば以前に行われた研究では、上達は練習中ではなく休憩中にしか起こらないことが判明しました。
また知識が統合される過程では、学習時に流れていた音楽や浮かんだ感情など、知識にまつわる周辺情報の記憶も進むために、記憶の思い出しも簡単になっていきます。
思い出の曲を聴くだけで、当時の感情が蘇ってくるのは、記憶の定着時に脳が周辺情報も一緒に取り込んでいるからなのです。
間隔をあける方法は、脳が行う記憶の統合と、繰り返しの「思い出し」による記憶の増強によって、学習効果を飛躍的に高めてくれます。
では「思い出す」方法はどんなものでもいいのでしょうか?
2つ目の聖杯:積極的な思い出し
間隔をあける学習方法では、新たな学習を行うときに「思い出し」の過程が含まれます。
研究では、この「思い出し」が「積極的」であることが学習を成功させる「2つ目の聖杯」であることが示されています。
多くの人々は学習内容を思い出そうとするときに、単純な教科書などの読み直しを行います。
しかしいくつかの研究では、多くの学習者が教科書の読み直しを行う目的が「内容が記憶にあるかどうかを調べて安心するため」に過ぎない可能性があると述べられています。
教科書を読みなおしで「思い出し」ができないわけではありませんが、消極的な方法であると言わざるをえません。
一方、2つ目の聖杯となる「積極的な思い出し」では、自分の中にある記憶を、さまざまな新しい方法で活用・解釈することが含まれます。
最も馴染みのある方法は、学んだ知識を活用しないと解けない練習問題や模擬試験に挑むことですが、それだけではありません。
クイズ、3行まとめ、作文、テストの予想問題の作成、果ては歌詞やマンガのネタにするなど、とにかく自分が学んだ内容を活用・再解釈し、さまざまな方法で表現するのです。
ただこのとき注意すべきは、学んだ時と同じ形式で知識を要約したりするのは避けて下さい。
記憶の中にある教科所のフレーズをそのまま引き出しても、それは「積極的な思い出し」にはなりません。
研究者たちは思い出しの容易さは学習の習熟度と極めて混同されやすいものであるため注意が必要だと述べています。
たとえば以前の研究では、以前の学習内容にかかわるクイズを生徒に日常的に解いてもらう試みを行ったところ、生徒の学習効果が跳ね上がったことが報告されています。
生徒たちは先生が作ったクイズに挑むときには、自分の中にある知識を頭の中でこねくり回し、正解の確信を得るために必要な形に再変換することが求められます。
これは積極的な思い出しそのものです。
またクイズは非常に簡単なものから、学習内容を理解していないと正解できないものまでさまざまなものが用意されており、生徒たちに成功体験とスキルアップを同時に行うことに成功しています。
研究者たちは「成功体験そのものも学習法の一部である」と述べています。
さらに他の研究では、生徒たちが分数を学んだ後に、分数についてなんでもいいから思いを語ってもらうというユニークな試みを行った結果、学習達成度が劇的に増加したことが報告されています。
この試みでは生徒たちは分数のテクニックや方法論を語るだけでなく、授業中に先生が話してくれた面白い話など、周辺情報を含むさまざまな内容が語られていました。
生徒たちは、はじめはあまり乗り気ではありませんでしたが、次第に自分なりの分数に対する思いを打ち明けるようになり、最終的には「白熱」とも言える状況に達していた、とのこと。
この結果は、なんでもいいから学んだ知識を積極的に思い出し活用・再解釈する経験が、学習効率を飛躍的に増加させることを示します。
(※なんでもいいからといって、練習問題や模擬テストをスルーしていいわけではありません)
研究者たちはこれら「間隔をあける」「積極的に思い出す」を同時に行うことで、さらに学習効果を高められると結論しています。
そうなると気になるのが、なぜこれほど効果がはっきりしている学習法が、イマイチ普及していないかです。
研究では主に、人間の原始的な感情である「恐怖」が原因になっていると述べています。