ゼブラフィッシュは「眼下の視覚情報」を重視していた
研究主任のエマ・アレキサンダー(Emma Alexander)氏は、本研究のきっかけについて、「最近、魚が上方の動きよりも下方の動きに強く反応することが発見されたのを受け、その理由を解明したいと考えました」と話します。
同氏は研究を進めるにあたり、水中のモデル生物としてよく用いられる「ゼブラフィッシュ(学名:Danio rerio)」に注目しました。
また今回は、研究室の水槽で飼育されている個体だけでなく、本種の原産地であるインドにも直接出向いています。
研究チームはインド国内の7カ所を訪れ、ゼブラフィッシュが生息する浅い川の映像データを収集しました。
防水ケースに360度カメラを入れ、遠隔操作できるロボットアームに設置。
それを水中に沈めてアームで移動させながら、ゼブラフィッシュが泳ぐ目線と同じ光景を記録しました。
このデータをもとに、シミュレーション上のゼブラフィッシュが実際の環境中をどのように泳ぐかといった、遊泳パターンのモデル化に成功しています。
次にチームは、実験室に戻って、LED球面アリーナの中にゼブラフィッシュを入れ、視覚情報の変化にどう反応するかを調査。
ここではLED照明機能を用いて、アリーナ底面に表示される「縞模様」の向きを変えてみました。
するとゼブラフィッシュは、次々と変わる縞模様の向きに呼応するように素早く泳ぎの向きを変えていたのです。
これはゼブラフィッシュが下方の視覚的な手がかりをもとに泳いでいることを示します。
こちらが実際の映像です。
チームは最後に、ゼブラフィッシュが遊泳中にどの方向の情報を重視しているかを明らかにすべく、インドと実験室の映像から得られたデータをオプティカルフロー研究に用いられる既存のアルゴリズムに入力。
オプティカルフローとは、生物の視覚において、自身の運動や外界の変化にともない、網膜に投影される像全体の速度場のことを指します。
具体的には下図のように、生物が前進するにつれて、進行方向の中心から放射状に拡散するベクトルで表示されます。
これで生物が、進行方向のどの視覚情報により強く頼っているかがわかります。
その結果、ゼブラフィッシュは野外でも実験室でも、前進する際に決まって下方の情報に頼って泳いでいることが判明したのです。
先の照明実験と合わせて、研究チームは「ゼブラフィッシュは泳ぐときに必ず下を向いている」と結論しています。
それでは、なぜ下向きで泳ぐ必要があるのでしょうか?