脊髄損傷後の歩行回復を助けるニューロンを特定
研究チームは、回復した患者たちが歩行するとき、通常の人間が歩行時に必要な腰部脊髄の神経活動が低下しているのを発見しました。
「歩けない人」よりも「歩ける人」の方が神経活動が少ないのは、なんとも不思議な話に思えます。
しかし、コウティーヌ氏は次のように説明しています。
「考えてみれば、驚くべきことではありません。
脳では、ある課題を学習すると、それこそ上手くなるにつれて活性化するニューロンが少なくなっていくのですから」
つまり、歩行にも「効率化のようなメカニズム」があり、あるニューロンは歩行し始める(歩行が回復する)ときに活性化し、歩行に慣れることで働かなくなるというのです。
このことは、歩行回復時に重要な役割を果たす特別なニューロンが存在することを意味しています。
あえて水道管で例えるならば、この実験手法は、断裂した水道管に対して勢いよく水を流し込むことに似ています。
通常、断裂した水道管ではいくら水を流しても、途切れたもう一方の水道管に水は届きません。
しかし根気強く水を流し続けることができれば、地下の亀裂など代替の経路を通って、途切れたもう一方の水道管へ水を届けることが可能です。
力技と言われればそれまでですが、理論的には再び水を流せるようになります。
今回も損傷した脊髄に根気よく電気パルスを強く流し続けることで、代替となる回路が構築され、脳と足を再び繋いでいたのです。
研究チームはこのニューロンを特定するため、ヒトで見られた今回の現象をマウスで再現しました。
そしてマウスの脊髄組織からサンプルを得て、機械学習アルゴリズムで解析。
その結果、条件に合う興奮性ニューロン「SC Vsx2::Hoxa10」を特定しました。
このニューロンは健康な動物の歩行には必要ありませんが、脊髄損傷後の歩行回復には不可欠であり、SC Vsx2::Hoxa10を破壊されたマウスは歩行回復しないことも確認されています。
脊椎の構造はヒトとマウスでよく似ているため、おそらく私たち人間でも、同じニューロンが歩行回復に役立つと考えられます。
以前として解明されていない部分は多くありますが、今後は、このニューロンに焦点を当てた研究を行うことにより、より効果的な回復が得られるかもしれません。
またチームは、これらの回復メカニズムを歩行だけでなく、膀胱や腸、性機能などの回復にも役立てたいと願っています。