「クレオパトラの墓」の発見につながるトンネルか?
タップ・オシリス・マグナ神殿は、エジプト北部アレクサンドリア県の沿岸部にある古代遺跡で、プトレマイオス朝時代の紀元前280〜270年の間に建設されました。
クレオパトラの墓の発見を目的とするUASDのチームが、この神殿を発掘対象として選んだのには理由があります。
タップ・オシリス・マグナ神殿は、クレオパトラの先祖の一人であるプトレマイオス2世(在位:紀元前285〜246年)によって建設が開始され、エジプト神話の神オシリスとその妃イシスを祀る目的がありました。
そしてクレオパトラは生前「女神イシスが人間に生まれ変わった存在」と言われ、夫のマルクス・アントニウス(紀元前83〜30年)は「オシリスが生まれ変わった存在」と考えられていたのです。
歴史上の定説では、古代ローマの将軍だったアントニウスが紀元前30年に息を引き取ると、クレオパトラはコブラに自らの腕を咬ませて夫の後を追うように命を絶ちました。
そこで研究主任のキャサリン・マルティネス(Kathleen Martinez)氏は「クレオパトラは、オシリスとイシスの祀られている神殿を自身と夫の埋葬地として選んだ可能性が高い」と考えたのです。
マルティネス氏は、アレクサンドリア周辺にある20の神殿を調査した中で「タップ・オシリス・マグナ神殿ほど、クレオパトラの埋葬地として理に適っている場所は他にない」と述べています。
氏と研究チームは2004年に、当時のエジプト観光・考古省(Ministry of Tourism and Antiquities)の大臣を務めていたザヒ・ハワス(Zahi Hawass)氏にこの仮説を説き、発掘調査の許可を得ました。
それから18年の時を経て、このたびの巨大なトンネルが発見されたのです。
トンネルは地下13メートルの地点にあり、高さ約2メートル、全長1305メートルにわたり砂岩を切り進んで作られていました。
研究者らは、その壮大かつ精巧な造りを目の当たりにして「幾何学的な奇跡(geometric miracle)」と称しています。
地下トンネルが掘られた目的は今のところ不明ですが、発掘チームは「クレオパトラの墓の発見につながる有力な手がかりになるかもしれない」と考えています。
同神殿ではこれまでに、クレオパトラの名前と肖像が刻まれた硬貨が大量に見つかっていたり、彼女の生きた時代に作られた埋葬用の竪穴が発見されています。
マルティネス氏は「この地下トンネルが失われたクレオパトラの墓につながるかどうかは分かりませんが、今後の作業でより多くの有益な情報が得られるはずである」と述べています。
チームは現在、地下トンネルの詳細な調査を進めると同時に、海底からの発掘調査に乗り出しています。
というのも、タップ・オシリス・マグナ神殿は、エジプト沿岸部で数世紀にわたり何度も起こった地震のせいで一部が崩壊しており、地中海に沈んでいるのです。
海底からどんな発見があるかは予想できませんが、もしクレオパトラとアントニウスの墓が見つかれば、21世紀の考古学史で最も重要な大発見となるでしょう。