通過可能なワームホールは量子情報を一瞬で伝達する
どうやってワームホールと量子テレポーテーションの背後に潜む共通の仕組みを暴くのか?
キッカケとなったのは2013年に行われた野心的な研究でした。
この研究ではじめて、ワームホールと量子テレポーテーションの基礎になる「量子のもつれ」が「関連」していることを示す基礎理論が提唱されました。
2017年になるとさらに理論が発展し、通過可能なワームホールを説明するのに使われていた重力理論が、量子テレポーテーションとして知られるプロセスと本質的に「同等」であることが理論的に示されました。
しかし理論的な理解は進んでも、ワームホールと量子テレポーテーションが本質的に同じ現象であるかを実証するのは困難でした。
足を引っ張っていたのは、解明が遅れているワームホールでした。
人類は既に20世紀末の段階で、量子テレポーテーションを再現することに成功していました。
しかし現在に至るまで通過可能なワームホールは発見されておらず、ワームホールと量子テレポーテーションの関係を実験的に確かめることは困難でした。
しかし2015年に発表された研究が大きな転機になります。
この研究では、量子プロセッサーにワームホールの特徴を回路として組み込むアイディアが提案されていました。
そして2019年になるとこのアイディアがさらに改良され、量子もつれの状態にある2つの量子を、疑似的なワームホール回路を挟むように設置する方法が考案されます。
この配置で量子テレポーテーションを実行すれば、ワームホール内部を情報が通過する様子をシミュレートすることが可能になります。
そこで今回、ハーバード大学の研究者たちは実際に、9ビットの量子から構成される量子プロセッサー内部に、ワームホールの特徴を発揮する疑似的なワームホール回路を埋め込み、何が起こるかを観察することにしました。
結果、量子もつれ状態にある2つのうち一方の量子の情報が、疑似的なワームホールを介して移動し、もう一方に伝達されていることが判明します。
この結果は、量子情報がワームホールを通過可能であることを示しています。
また実験結果は、通過可能なワームホールを表現するために用いられる重力理論が、量子テレポーテーションとして知られるプロセスを別の角度から表現したに過ぎないことを実証するものとなりました。
しかしより興味深いのは、情報通過にともなう疑似的なワームホールの挙動でした。