野生のクマの「リアルな食生活」が明らかに
動物園のクマは日中のんびりと過ごしていても定期的に十分な量のエサが与えられますが、野生のクマではそうはいきません。
全ての野生動物と同じく、生きるために自分で食べ物を探さなければいけないのです。
そのため採食は生活の中で最も重要な行動の1つと言えます。
ところが、野生のクマの食生活はあまり知られていません。
それは当然ながら警戒心の強い野生動物を常時追いかけて観察することは難しいためです。
そこで小池氏ら研究チームは、ビデオカメラを搭載した首輪(以下、カメラ首輪)を用いて野生のクマの採食行動を記録することにしました。
対象となったのは、捕獲した4頭(オス2頭、メス2頭)の成獣のツキノワグマです。
彼らにカメラ首輪を装着して解放し、記録された映像から普段の食べ物を分析したのです。
カメラは15分間隔で10秒の映像が撮影されるように設定されており、平均41日間撮影が続けられました。
同時に、クマが滞在した場所から糞を採取し、ここからも食事内容を分析しました。
その結果、4頭分の映像からは30種類以上の食べ物を特定することができました。
映像には、クマたちが高い木に実った果実を食べたり、地面にある植物の葉やササ類を食べたりしている様子が映し出されました。
また朽ち木を歯や爪で崩して、中のアリ類を食べたりしています。
ここまでは動物園で眺めるクマとさほど変わらない可愛らしい食生活に思えます。
しかし、取得した映像には「野生のクマ」ならではの「リアルでシビアな場面」も収められていました。
クマたちはニホンジカの子供やニホンカモシカの成獣、ツキノワグマの子供(オス成獣による子殺しと推定)も食べていたのです。
(※閲覧注意:カモシカの死体を食べる映像が動画の最後に収められています)
クマが人間を襲う場合は、主に3つの理由があり「排除(不意に出会った時など)」「戯れ(じゃれ気で)」「捕食」とされます。
こうしたリアルな食生活は、クマが人間を襲う理由の1つに「食事」があることを思い起こさせます。
また糞の分析からは15種類程度の食べ物が見つかりましたが、そのほとんどは原型をとどめておらず、種類を正確に特定することはできませんでした。
加えて、4頭それぞれの分析結果から、クマの食事内容には個体差があると分かりました。
いずれの個体も主食はサクラ類の果実でしたが、他の割合は個体差が大きかったのです。
野生のクマたちは意外と初夏に食べ物が得づらく、厳しい食生活を送っていることが知られており、今回の調査結果からも多様な食物を探して食べることで、なんとか生き延びていることが分かります。
クマの本来の生活というのはなかなかにシビアであり、やはり動物園のクマとは大きく異なっているのです。