新しい単語を学ぶとき「直ぐに声に出す」はよくないと判明!
新しい外国語の単語を聞いたとき、声に出して繰り返すことが重要だとされています。
単語を声にするとき私たちの脳では単語のつづりを視覚で認識し、音を脳内で組み立て、言語として口から出力するという複合的なプロセスが働きます。
複数の脳機能を同時に動かすのは大変です。
しかしこれまでは、その大変さこそが新たな単語を脳に刻み込む「いい刺激になる」とされていました。
つまり「脳に多方面から負荷をかけたほうが学習効果が高くなる」という理論です。
しかし近年になって、必ずしもそうとは言い切れないことが明らかになってきました。
たとえば2022年に行われた研究では、新しい外国語の単語を直ぐに声に発することが、発音の学習にとって有害であることが示されています。
脳も筋肉と同じように、とにかく負荷をかければいいというものではなく、新しく聞いた単語を処理するためのインターバルが必要だからです。
そこで今回BCBLの研究者たちは「直ぐに声に出す」ことが知覚学習にどの程度の影響を与えるかを調べることにしました。
知覚学習とは2つの音素を区別したり、図形のパターンを素早く認識するために行われる訓練として知られています。
人間は適切な訓練さえ積めば、訓練を受けていない人に比べて遥かに正確に発音を認識することが可能であり、それは外国語の単語についても当てはまります。
(※医者がX線画像から腫瘍の影を的確に見抜けるようになるのも音楽家が楽器のいい音色と悪い音色を聞きわけられるのも、知覚訓練の積み重ねによるものと考えられています)
調査にあたってはまず、300人の被験者たちに対して新しい12個の単語を4つの方法で学習してもらいました。
1つ目の方法は、たた聞くだけ、2つめの方法は聞いた直後に声に出す、3つ目の方法は聞いてから2秒後に声に出す、4つ目は聞いてから4秒後に声に出す、というものでした。
被験者たちは上記の4つの方法のいずれかで12個の単語について学習し、翌日に知覚学習の効果(単語を正確に聞きわける能力など)が確かめられました。
結果、新しい単語を聞いた直後に声にすると、単に聴いていただけに比べて学習の混乱が起こることが判明します。
一方、単語を聞いてから4秒間待ってから声に出すことで、このマイナス効果が相殺されることが判明しました。
これらの結果は新しい単語を聞いた直後に声に出すことは、学習効率を悪化させることを示します。
しかしそうなると気になるのが、その理由です。
なぜ聞いた直後に声に出すことが、知覚学習の妨げになっていたのでしょうか?
研究者たちによれば、原因は私たちの脳の認知リソース(資源)の少なさにあるとのこと。
新しい単語を聞いた直後、脳の認知能力はその単語の理解(エンコード)をするため全力を尽くします。
たとえば「Unicornio(ユニコールニオ)」という単語をはじめて耳にしたとき、日本人や英語を母国語とする人は「ユニコーンのこと?」などと頭を巡らせることになります。
「この頭を巡らせる」という過程こそが、脳にとって情報を咀嚼し理解(エンコード)する過程であり、学習効果を増加させる鍵となります。
研究では、この重要な瞬間に単語を無理矢理に声に出そうとすると、限られた脳の認知リソースが分割され、単語の理解(エンコード)が妨げられてしまうことが判明。
認知リソースの分散は結果として「二兎を追う者は一兎をも得ず」な状況を作り出し、最終的な学習効率を低下させていました。
一方、新しい単語を聞いてから4秒ほど待って声に出す場合、認知リソースの分散や学習効果の低下が起こらなくなっていることがわかりました。
この結果は4秒ほど待つ間に脳が新しい単語の理解(エンコード)を完了させ、認知リソースに余裕がうまれることを示します。
研究者たちは認知のメカニズムを理解することができれば、教師が生徒に新しい単語を効果的に学習させることが可能になると述べています。
もし近い将来、外国語を学ぶ機会があったのならば、単語を直ぐに声に出さず、脳が単語の音を咀嚼する時間(4秒ほど)を待ってみたほうがいいでしょう。