集中力を失うと学習が促進されることもあると判明!
現代に生きる私たちに最も必要とされる能力の1つに「集中力」があげられます。
集中力がある人は目標に意識を強く傾けることが可能であり、学習や記憶の効率を上昇させられるだけでなく、知覚を鋭敏化させて微かな違いにも敏感に反応することが可能となります。
そのため一部の人々は、集中力の有無が人生の成功の可否すらも予想できると考えています。
確かに集中力の欠如が学習能力を低下させ、基本的な五感すら鈍くするのは確かです。
しかしこれまでの研究により、集中力を維持するのと同じくらい、集中力を失うことが重要であることがわかってきました。
たとえば以前に行われた研究では「上達」は集中して練習を行っている場合には起こらず、集中力を失った休憩中にのみ起こる現象であることが知られています。
また人類の文明を発展させた数々の偉大な発見も、集中から解き放たれリラックスしている最中に行われたものとなっています。
そこで今回MITの研究者たちは「集中力を失うことが学習に役立つ場合があるかどうか」を調べることにしました。
調査では被験者たちに、上の図のように、文字をみたらキーボードのFキー、数字をみたらキーボードのJキーをできるだけ素早く押すように指示されました。
すると予想通り、集中力が高い状態では反応速度が上がり、低い状態では反応速度が下がることがわかりました。
次に研究者たちは同じ試験を、文字や数字の周囲に「* # @」など余計な記号の書き込みがある状態で行ってもらいました。
これらの記号の書き込みはランダムではなく、文字や数字に関連した隠されたパターンをとるものとなっています。
(※たとえば2,4,6,8などの偶数は*と一緒に書き込まれ、奇数は♯と一緒に書き込まれたり、アルファベットの前半の文字は@、後半の文字は*などと一緒に書き込まれました)
ただし被験者たちには作業中、記号は無視して文字か数字かの判断だけを素早く行うように求められました。
その後、研究者たちは被験者たちの反応速度(集中力の高さ)を調べると共に、記号のパターンについて何か気付いたことがあるかを尋ねました。
すると、集中力が落ちた瞬間、被験者たちの注意範囲が拡大し、記号の隠されたパターンに気付くようになったのです。
また集中力を失う頻度が高い人ほど、記号の隠されたパターンに気付きやすいこともわかりました。
研究者たちは「隠されたパターンを最もよく学習した人は注意力が低く『ゾーンの外』にあることが多かった」と述べています。
ゾーンとは集中している人間が入り込むことができる「没頭」した状態であり、ゾーン中の脳ではドーパミンやアドレナリンといった覚せい度を高める脳内物質が分泌され時間を忘れて作業に取り組むことが可能になります。
一方、集中力が途切れた状態ではゾーンに入って没頭することができませんが、代わりに「* # @」などの周辺の記号に注意が拡大し、隠されたパターンに気付く(学習する)ことができたのです。
これらの結果は、注意力が散漫になっているほうが学習にとって有利になる場合が存在すること示します。
もしゲームのようにひたすら決められたタスクを行うならば、集中力があるほうがよい得点をとることができるでしょう。
しかし現実世界の仕事の多くは作業性と創造性の両方が必要とされます。
そのため研究者たちは「集中している期間と集中していない期間を切り替えることができれば、総合的にみてよりよい結果が得られるだろう」と述べています。
私たちがアイディアや創造性を発揮して自然界の隠された法則やパターンを利用できるようになったのも、集中とその後の脱集中の組み合わせを上手く利用した結果と言えるでしょう。
では、人間に備わる集中と脱集中の能力は進化のどの段階で、何のために獲得されたものなのでしょうか?