人生一度の繁殖チャンスにすべてをかけるオスたち
ヒメフクロネコ(学名:Dasyurus hallucatus)は一回繁殖性の哺乳類としては世界最大で、体長はオスが27〜37センチ、メスが25〜31センチ程あります。
オスは年一回の繁殖期を終えると死にますが、メスは3〜4回の繁殖期を経験し、単独で子育てをしなければなりません。
研究チームは今回、オスが繁殖期後に死ぬ原因を解明すべく、オーストラリア北部ノーザンテリトリーの沖合にある島グルートアイランド(Groote Eylandt)にて、オス7頭とメス6頭を捕獲し、GPS装置を取り付けて行動を記録。
追跡調査は2019年の繁殖シーズンである7月〜8月に行われました。
延べ42日間かけて収集されたデータは機械学習アルゴリズムに入力され、ヒメフクロネコの様々な行動が分類・分析されています。
その結果、繁殖期のオスはメスに比べてはるかに活動的になることが判明しました。
1日の休息時間の割合を比べてみると、メスの23.65%に対し、オスは7.67%しかなかったのです。
研究主任のジョシュア・ガシュク(Joshua Gaschk)氏は「オスは明らかに寝るべきときに休息を取ろうとしていませんでした」と話します。
さらにオスの方が移動や活発に動く時間が長くなっており、メスの13.69%に対し、オスは19.12%でした。
モイモイ(Moimoi)とケイレス(Cayless)と名付けられた2頭のオスは、一晩でそれぞれ10.4キロと9.4キロを走破していました。
これは人間に置き換えると、一晩で35〜40キロ歩くのに相当するといいます。
加えて、天敵への警戒心もわずかに減っており、メスの15.79%に対し、オスは12.91%となっていました。
オスは繁殖期を最大限に活用するため、メスを探して交尾することにエネルギーを全力で費やしていたのです。
休息や睡眠の減少が直接の死因になっているとは断言できないものの、ガシュク氏は「繁殖後にオスが死亡する原因について、初めて決定的な証拠を掴んだかもしれない」と話します。
というのも、調査で記録されたオスの死因としては過労による衰弱死・他のオスとの衝突・天敵への捕食が最も多く、明らかに休息や睡眠不足に起因していると思われるからです。
ガシュク氏は「繁殖期が終わるころ、オスはひどい姿になり、体重が減って毛皮を失い始め、常に仲間と喧嘩するようになっていた」と話します。
毎年オスが繁殖後に必ず死ぬということは、近年の生息地の減少や外来捕食種の侵入により、すでに絶滅が危惧されているヒメフクロネコをさらに危機的な状況に追い込むものと考えられます。
その一方で、ガシュク氏は「ヒメフクロネコは”自殺的繁殖(suicidal reproduction)”とも呼べるこの戦略を数千年以上も続けているのだから、種を存続させるための何らかのメリットがあるはずだ」と指摘します。
チームは今後、オスがたった一回の繁殖期にすべてをかけることのメリットについて、さらなる研究を進めていく予定です。