食用キノコ「ヤマブシダケ」に記憶増強剤が含まれていると判明!
古くから、子供の脳のほうが大人より柔軟で回復力に優れていることが知られています。
子供の脳はその優れた吸収力で言語をはじめとしたさまざまなスキルを簡単に習得し、大人であれば寝たきりになってしまうような大きな脳損傷も、驚くような回復力で補うことが可能です。
近年の研究では、そんな子供の脳の強さの源となる成分が数多く同定されており、中でも「ニュートロフィン(神経栄養因子)」と呼ばれる一連の化合物が重要な役割を担っているとわかってきました。
ニュートロフィンにはニューロンの伸長や分岐を促し神経接続を増加させることで、子供の脳に高い記憶力やスキルの習得力を与えているのです。
(※実際、ニュートロフィンの一種である神経成長因子(NGF)や脳由来神経栄養因子BDNFは脊椎損傷後のニューロンの生存と軸索再生を促進する効果が知られています)
ただニュートロフィンは子供の脳内では豊富に存在するものの、大人になると生産が大幅に減少してしまい、外部から摂取することも困難です。
その理由は、ニュートロフィンの半減期が数分と非常に短い(分解されやすく)ことと、ニュートロフィンが体と脳の血管の関所である血液脳関門でブロックされてしまう物質のためです。
そのため大人がニュートロフィンを使って脳機能を改善したい場合、脳内に直接ニュートロフィンを注入する必要がありました。
ですがもし、血液脳関門を突破し、脳内でニュートロフィンを増やしてくれる化合物があれば、ニュートロフィンを持続的に摂取したのと同じように脳機能を改善させられるはずです。
そこで今回クイーンズランド大学の研究者たちは、古くから漢方薬の1つとして利用されてきたヤマブシダケに着目しました。
ヤマブシタケは漢方の世界で伝統的に、胃炎や消化不良、がん予防に使われてきたキノコです。
しかし近年の研究によって、ヤマブシタケの抽出物にはマウス脳においてニュートロフィンの一種である脳由来神経栄養因子(BDNF)の経路に影響を与えたり、マウスのアルツハイマー病を改善する効果が明らかになってきたのです。
(※他にも以前からヤマブシタケには、主に末梢神経においてニュートロフィンの一種である神経成長因子(NGF)の生産を加速することが報告されていました。)
つまり、ヤマブシタケに含まれる何らかの成分が脳内でニュートロフィンの生産を増やしている可能性があったのです。
問題は、それがどんな成分なのかです。
早速研究者たちは、ヤマブシタケに含まれる多様な成分を抽出し、培養中のラットの海馬ニューロンに注いで変化を調べてみました。
するとヤマブシタケに含まれるイソインドリン(NDPIH)やヘリセンAといった化合物に、海馬ニューロンの神経突起の長さを3倍に伸ばしたり、神経突起の分岐数を大幅に増加させる効果があると判明したのです。
(※また続く観察により、イソインドリン(NDPIH)やヘリセンAに毒性がないことが示されました。)
ただ培養されたニューロンと同じ結果が生物の体でも起こるとは限りません。
そこで研究者たちはマウスに対してヤマブシタケの疎抽出物とヘリセンAを経口投与して何がおこるかを調べてみました。
するとヤマブシタケ抽出物とヘリセンAを投与されたマウスは記憶力が大きく増加していることが判明。
またマウスから脳を摘出して分析したところ、ヤマブシタケ抽出物とヘリセンAを投与されたマウスは複数種類のニュートロフィン(BDNF、NGF、CNTF、および GDNF)が大きく増加していることが判明しました。
この結果は、ヤマブシタケに含まれる成分がニュートロフィンの増加を通じて記憶力を増強させていることを示唆しています。
※興味深いことにヘリセンAは血液脳関門を突破できることが知られています。
またマウスに投与されたヘリセンAは5mg/kg/日(体重1kgあたりの1日の摂取量)と非常に低濃度でした。また研究では、ヘリセンAの記憶増強効果はスマートドラック(知能増強剤)として知られるピラセタムに匹敵することも示されました
研究者たちはヤマブシタケから抽出されるヘルセンAなどの物質が、大人の衰えた脳機能を改善し、アルツハイマー病などの治療薬になる可能性を指摘しています。
ヤマブシタケは食用キノコであり、一部のスーパーなどでも売られています。
もし今度、白くモシャモシャしたヤマブシタケがスーパーに並んでいるのをみたら、記憶力増強を狙って食べてみるといいかもしれません。