エサが存在しないのにブラックホールが成長している
研究の基礎となる概念は、量子力学において「真空のエネルギー」と呼ばれる存在です。
私たちの住む宇宙には、物質が極めて少ない真空にも莫大なエネルギー(真空のエネルギー)が含まれており、このエネルギーが重力に逆らう圧力を発揮することが知られています。
実際、2020年に行われた研究では、この真空の力(カシミール効果)を利用して、物体を移動・変形させることに成功しています。
そのため現在、真空のエネルギーは暗黒エネルギーの正体の最有力候補と考えられています。
新たな研究では、この「真空のエネルギーが暗黒エネルギーの正体である」とする説をアインシュタインの方程式に組み込んで計算しました。
1966年、ソ連の物理学者エラスト・グライナーは、アインシュタインの方程式によって、真空のエネルギーが凝縮することで、一見するとブラックホールのようにみえる「真空エネルギーの球体」を作り出せることを示しました。
そのため、もし「暗黒エネルギー」=「真空のエネルギー」という公式が成り立つ場合、ブラックホールが持つ質量は、内部の暗黒エネルギー(真空のエネルギー)の量と相関している可能性があります。
そこで今回、1つ目の研究では、楕円銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールに着目しました。
楕円銀河は一般に、複数の銀河が合体してできた古くて巨大な銀河のことです。私たちの天の川銀河やアンドロメダ銀河なども最終的には、この楕円銀河に行き着くと考えられています。
このタイプの銀河は概して非常に不活発であり、新しい星の形成がストップして、星々の間にはほとんどガスが含まれていません。
つまり、ブラックホールにとって新たなエサが存在しない銀河なのです。
研究者たちは複数の楕円銀河を観察することで、中心部の超大質量ブラックホールが過去90億年にわたり、どのように質量が変化してきたかを調べました。
もしブラックホールの成長が物質やエネルギーの吸収に依存している場合、中心部のブラックホールはほとんど質量が変化しないはずです。
しかし分析の結果、中心部のブラックホールは予測されるよりも7倍から20倍の大きさであることが判明します。
つまり、エサがないにもかかわらずブラックホールが成長するという、奇妙な現象が起きていたのです。
そこで研究者たちは次に、この現象の説明を行うための新たな理論の構築を行いました。