最も大きな要因は「感情の読み取れなさ」か
チームは、道化恐怖症を持っていた528名(53.5%)を対象に追加調査を実施しました。
ここでは、「ピエロが怖い」と感じる原因として考えうる以下の8つの項目に当てはまるかどうかを質問しています。
・ピエロのメイクが人間離れしているため、不気味さや不安感を感じる。(人形やマネキンにも同じ感覚がある)
・ピエロの誇張された顔立ちが、直接的に脅威を感じさせる。
・ピエロのメイクが感情的なシグナルを隠し、不安感を生じさせる。
・ピエロのメイクの色が、死や病気、血の傷などを連想させ、嫌悪感や回避欲求を呼び起こす。
・ピエロの予測不能な行動が、不安や不快さをあおる
・ピエロに対する恐怖は、家族から学んだものである。
・大衆文化でピエロが否定的に描かれている。
・ピエロに関して個人的に怖い体験をしたことがある。
すると興味深いことに、最後の「個人的に怖い体験をしたことがある」という質問では、回答者の同意度が最も低いことが分かりました。
つまり、ピエロへの恐怖は、個別の経験を超えたところにあり、多くの人々に普遍的な何かが原因である可能性が示唆されたのです。
その一方で、大衆文化におけるピエロのネガティブな描写は、道化恐怖症の要因としてかなり強く作用していました。
たとえば、スティーヴン・キング原作の小説で映画にもなった『イット』には、子どもたちの恐怖心の象徴として不気味なピエロ「ペニーワイズ」が登場します。
また、バットマンの宿敵である「ジョーカー」も白塗りのピエロメイクをしています。
こうしたフィクション作品におけるネガティブな描写がピエロと関連づけられ、恐怖心につながっているのかもしれません。
しかし、研究チームが特定した最も強い要因は「感情信号が隠されること」でした(質問項目では3つ目)。
回答者のほとんどは、ピエロ特有のメイクアップによって表情が読み取れなくなったことに、強い不安感や不気味さを抱くと答えていたのです。
つまり、ピエロの表情が読み取れないために「何を考えているのか」「次に何をしでかすのか」が分からず、人々は不安や不気味さを抱いてしまうものと思われます。
同じことは他のケースにも当てはまるのではないでしょうか?
たとえば、日本の伝統である歌舞伎の白塗りやマクドナルドのマスコットであるドナルドの顔、あるいは能面のような無表情のマスクや人形にも、恐怖を感じる人は多いはずです。
特にドナルドに関しては、企業のマスコットのため恐怖を煽る演出や利用はないにも関わらず、怖いと答える人が存在しています。
これらはどれも「感情の読み取れなさ」と関係しているようです。
確かに私たちの恐怖の感情は、未知なる存在に対して強く沸き起こるものです。
多くの生物は未知のものを警戒し、知識を集めることで対処して来ました。表情を隠すという行為は、こうした生物が感じる得体の知れないものへの警戒心を強化するのかもしれません。
今回の研究から、人々がピエロを恐れる理由について新たな知見を得ることができましたが、まだ多くの疑問が残されています。
研究者は「感情を隠すメイクアップが恐怖を引き起こすのであれば、たとえば、動物の顔をペイントした人にも同じように恐怖や不安感を感じるのだろうか」と考えています。
確かに単純に表情の読めない事が怖いのであれば、上記で取り上げたように仮面や白塗りなど様々なパターンが存在します。しかし、何故大きくピックアップされるものがピエロに限定されるのでしょうか?
ピエロのメイクに特有の何かが私たちの恐怖を煽っているのでしょうか?
チームは今後、こうした点について理解を深めていきたいと話しています。