ボッティチェリ作『キリストの哀悼』(1490〜1492年頃)
ボッティチェリ作『キリストの哀悼』(1490〜1492年頃) / Credit: Ophélie Ranquet et al., Nature Communications(2023)
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絵画の巨匠たちが油絵具に「卵黄」を混ぜた理由とは? (2/2)

2023.04.09 17:00:56 Sunday

前ページ卵黄を加えることはメリットだらけだった

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唯一の欠点は「乾燥までに時間がかかる」

さらに、卵黄のタンパク質が顔料粒子の周りに薄い層を形成することで、湿度の高い環境での水分の吸収を予防できることが分かりました。

これにより、高湿度にさらされても絵具を保護しやすくなります。

それだけでなく、卵黄に含まれる抗酸化物質が、酸素と油成分の反応速度を低下させることで、絵の「黄変」を防止する効果もありました。

こちらはイタリア・ルネサンス期の巨匠サンドロ・ボッティチェッリによる『キリストの哀悼』で、人物画には卵黄を混ぜた油絵具が使われています。

ただ前景の草むらと背景の石には通常の油絵具が使われており、巨匠たちもケースバイケースで卵黄入り絵具を使い分けていたようです。

『キリストの哀悼』(1490〜1492年頃)
『キリストの哀悼』(1490〜1492年頃) / Credit: Ophélie Ranquet et al., Nature Communications(2023)

一方で、卵黄を混ぜると絵具が乾燥するのに時間がかかるという欠点も見つかりました。

そのため、絵具を塗り直したり、塗り重ねるには時間がかかったと考えられます。

それでも研究主任のオフェリエ・ランケ(Ophélie Ranquet)氏は「非常に少量の卵黄でも油絵具の特性を驚くほどに変化させ、芸術家にとって有益な効果が数多く得られたでしょう」と話しています。

本研究には参加していない米シカゴ美術館(The Art Institute of Chicago)のケン・サザーランド(Ken Sutherland)氏は「歴史的な巨匠たちがどのような材料を使ったかを理解することで、創作過程や最終の完成品をより正しく評価できるでしょう」と指摘。

その上で「美術品そのものの理解を深めるだけでなく、オールド・マスターの芸術作品の保護に役立つ可能性がある」と述べました。

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