地震波の伝わり方からコアの組成を解き明かす
地震は単に地表面を揺らすだけの振動ではありません。
専門家らは100年以上前から、地震波が惑星に対する一種の音響X線(acoustic X-ray)として利用できることを知っていました。
地震波が発生地点から地球の内部に伝わると、液体を通過するのか固体を通過するのかで伝播の仕方が大きく変わります。
その伝播や反射データをもとに、内部の組成マップを作ることができるのです。
この手法は1906年に実際に使われ、地球のコアが固体の内核と液体の外核(どちらも主成分は鉄)からなることを明らかにしました。
メリーランド大学の地質学者で研究主任のヴェドラン・レキッチ(Vedran Lekic)氏は「それから100年以上経った今、私たちは同じ手法を火星に適用することにしたのです」と話します。
今回使用されたのは、NASAの火星探査機・インサイト(InSight)が過去4年間にわたり収集した地震データです。
インサイトはこれまでに火星表面で数百回の火山性地震を検出し、火星の内部に関する詳細な情報を得ています。
さらに2021年に、インサイトがいる地点のほぼ反対側で起きた2つの途方もない巨大地震のおかげで、これまでにない詳細な火星内部のデータが得られました。
火星コアを間に挟んで地震波が得られたのはこれが初めてでした(下図)。
そしてインサイトは火星の表面と内部を伝播する衝撃波を分析することで、ついに火星コアの実態を解き明かしたのです。
結果、火星コアは地球とは違い、すべてが液体状の鉄合金でできていることが判明しました。
地球は先述したように、内核が固体で外核が液体です。
さらに火星はコアに含まれる軽い元素の割合が非常に高く、コア重量の約5分の1が硫黄を中心とした軽元素で、その他に酸素や炭素が存在していました。
これは地球コアに含まれる軽元素の割合が比較的少ないのとは異なり、地球コアよりも密度が低く、圧縮性が高いことを意味します。
そしてこの違いから、生命の存在にとって重要な”磁場シールド”が火星にない理由が説明できるかもしれません。