古代の人工物からDNAを「洗い出す」方法を開発
生きとし生けるものは細胞が壊れたり剥がれ落ちたりする際に、ヘンゼルとグレーテルのごとく、周囲に微かなDNAの足跡を残します。
こうした土壌や水中、大気、あるいは人工物といった環境中から採取できるDNAが「環境DNA(eDNA)」です。
近年では、これら環境DNAを見つけて採取する技術が驚くほど進歩しています。
たとえば、生体から直にDNAを採取する従来の方法では追跡が難しかった絶滅危惧種も、環境中のわずかな痕跡からその存在を確認できるようになったのです。
そして研究チームは今回、歴史的な人工物から安全に環境DNAを抽出する最新技術を確立しました。
古代人のDNAは一般に本人の歯や骨、毛髪から採取されます。
一方で、彼らの残した人工物は当時の暮らしや文化を知る手がかりにはなりますが、それを作ったり使った人を遺伝的に特定することは極めて困難でした。
しかし人工物に遺伝情報を含む皮膚細胞や血液、汗、唾液が付着していれば、DNAの採取も不可能ではありません。
そこでチームが開発したのは、リン酸塩ベースの特殊な化学物質に人工物を浸して、中に保存された環境DNAを洗い出すという方法です。
人工物の微小な穴に液体状の化学物質が浸透し、徐々に温度を上げることで、中に隠されたDNA断片が外に出てきます。
研究主任のエレナ・エッセル(Elena Essel)氏は「これは古代遺物の洗濯機のようなもので、溶液の温度を高めることで遺物を一切傷つけることなく環境DNAを取り出せるのです」と説明します。
チームはこの手法を2019年にロシア南部アルタイ山脈にあるデニソワ洞窟で見つかった「シカの歯のペンダント」で実践することにしました。