ザトウクジラには細菌やフジツボが付着しやすい
ザトウクジラにはフジツボがくっついているイメージを持つ人は多いかもしれません。
フジツボは広く海洋を漂って付着してくる寄生生物です。そのため、ウミガメの甲羅や船底などによくくっついています。
クジラも遊泳スピードが人間の歩行と同じくらいゆったりしているため、フジツボが付着しやすいといいます。
しかし、あんなものが付着していてザトウクジラは気にならないのでしょうか?
実は同じ海洋哺乳類のシロイルカやホッキョククジラは以前から、古びた皮膚や角質を落とすために岩場で体を擦ることが知られていました。
一方のザトウクジラは海底まで潜水して食事はするものの、アカスリをしているかどうかは分かっていませんでした。
ザトウクジラの巨体には、フジツボの他にも皮膚細菌のコロニーが繁殖することが多々あります。
フジツボがくっつくと流体の抵抗を生むため遊泳能力を低下させてしまいますし、細菌は傷口から感染症を引き起こす危険性があります。
そのためクジラ類は体表面の代謝を健康に保つために、古びた皮膚を定期的にこすり落とさなければなりません。
そこで研究チームは「ザトウクジラも何らかのアカスリ行動をしているはずだ」と考え、調査を開始したのです。
アカスリ行動を世界で初めて撮影に成功!
チームは2021年8月から2022年10月にかけて、オーストラリア東部クイーンズランド州のゴールドコースト湾に住む3頭のザトウクジラに光度・圧力・温度などを測定できるGPS付きの高性能カメラをタグ付し、追跡観察を開始。
その結果、ザトウクジラたちが水深50メートルまで潜り、砂地の上で転がり回ってる姿がたびたび観察されたのです。
さらに、そのすべてのケースでクジラたちが砂の中に頭をゆっくりと突っ込んで、横向きにロールする様子が確認されました。
これについて、グリフィス大の海洋生態学者で研究主任のオラフ・メイネッケ(Olaf Meynecke)氏は「皮膚細菌や寄生虫の密度は一般に顔周辺の方が他の部位より高いため、顔を中心とした入念なこすり落としをしていると見られる」と指摘しています。
この行動はタグを外そうとしたことが原因とも予想できますが、映像を見ると、タグ付されていない他のザトウクジラも一緒に集まって同じ行動を取っていました。
また調査対象とされたザトウクジラはタグ付された箇所を狙っているようには見えなかったため、これは皮膚を健康に保つためのアカスリ行動とみて間違いないようです。
さらに、アカスリ行動はザトウクジラだけにメリットがあるわけではありませんでした。
砂地でこすり落とされた皮膚はミナミシマアジ(Pseudocaranx georgianus)の最適なおやつとなり、ザトウクジラが砂地を巻き上げた直後に、小魚たちが皮膚をめがけて集まってきたのです。
それからアカスリ行動は、仲間とのコミュニケーションを促進する場にもなっている可能性があると研究者は指摘します。
というのも、観察されたアカスリの多くが複数個体で同時に行われており、加えて、その行動はクジラの遊びや求愛、競争など、何らかの社交の後に続いていたのです。
これは友人同士で草野球でもして汗をかいた後に、みんなでスパに行くようなものかもしれません。
ザトウクジラのアカスリ行動は体だけでなく、心の健康にとっても有益な効果がありそうです。