脳細胞の細胞膜上に超音波を感知するイオン流入口が存在した
なぜ超音波を視床下部にあてるだけで、冬眠のような不活性状態にできるのか?
謎を解明するため研究者たちは、視床下部の脳細胞に超音波に反応するタンパク質が存在しないかを調べました。
すると超音波に反応して視床下部の視索前野(POA)にあるニューロンが活性化していることが判明。
また超音波で活性化しているニューロンでどんな遺伝子が強く働いているかを調べたところ、TRPM2と呼ばれるカルシウムイオンチャンネルの発現レベルが高いことがわかりました。
イオンチャンネルは特定のイオンを通す細胞膜上のイオンの出入口であり、イオンの出入りは細胞の特定の機能をオンオフするシグナルとなります。
研究者たちが詳しくこのイオンチャンネル(TRPM2)の挙動を調べたところ、超音波に反応して細胞内部にカルシウムイオンを流入させていることが明らかになりました。
ただ現時点でイオンチャンネルが超音波の物理的な空気振動に反応しているのか、振動によって発生する熱に反応しているかは、わかりませんでした。
ただ研究者たちは超音波によって発生する熱のほうが、より有力であると思っているようです。
研究者によれば、このイオンチャンネルが存在するPOAニューロンは上がり過ぎた体温を低下させる機能があると考えられており、超音波によって発生した熱にニューロンがびっくりして、体温の緊急冷却システムが働いた可能性があるとのこと。
今後、超音波による冬眠の制御技術が確立されれば、医学だけではなく宇宙の分野においても、人間を冬眠させる技術は有用になると考えられています。
惑星間航行など長期にわたるミッションに従事する場合、人員を冬眠状態に維持できれば輸送コストを大幅に削減することが可能だからです。
研究者たちは、人間の脳に超音波刺激を行うヘルメットを開発する「だけ」ならば十分可能であると述べています。
ただ安全性の確認や人間での使用が認められるには、より多くの検証が必要となるでしょう。