宇宙太陽光発電の課題と実装可能時期は?
今回、SSPPの発表では、宇宙空間から地表へ向けてのエネルギー照射に関しては送電量が記されていない為、実際に何W地上にエネルギーを照射できたのか定かではありません。
JAXAは地上で無線エネルギー伝送実験を行っており、2015年に伝送距離55 m、送電出力約1.8 kW、受電出力330~340 Wを達成しています。300 Wというと、ゲーミングPCや小さめのホットカーペットの電力です。
JAXAによれば、宇宙太陽光発電システム(SSPS)の課題として、宇宙空間への大量輸送技術、大規模宇宙構造物の構築技術の確立に加え、送電の際に用いるマイクロ波やレーザーが人や動物の健康に与える影響や航空機、電子機器や自然大気に与える影響があげられており、これは今後も十分に調査する必要がありそうです。
宇宙空間で巨大な発電所を運営することは、言ってみれば国際宇宙ステーション(ISS)を運用するようなもの、たとえISSよりは小規模で、無人であったとしても「運用、維持、廃棄のコスト」は他のエネルギー源に比べて高いことは想像に難くありません。
周波数(マイクロ波の場合)の確保、軌道位置、地上受電サイトの場所の確保等、法整備や地上基地建設に伴う区画整理など、司法・行政面でもやるべきことは沢山あると思われます。
JAXAは100万 kW級の大規SSPSの実現目標時期を2030年代としていましたが、現時点で研究計画を見直しており、実現可能時期は予想が難しいようです。
では、なぜその様な困難な宇宙太陽光発電に挑戦するのでしょうか。わざわざ、宇宙で発電する意味はあるのでしょうか。
三谷友彦 准教授(京都大学 生存圏研究所 生存圏開発創成研究系 生存圏電波応用分野)の資料によれば、宇宙太陽光発電は太陽光の強度がつよく、太陽光角度や天気による制限を受けない為、発電出力は地上の約2倍、電力量でみれば約9倍に達する見込みがあると報告されています。
また三谷先生の資料では、地球上へのエネルギー伝送が現実的に難しくとも、宇宙空間での発電には、宇宙空間での利用が真っ先に期待できるといいます。
例えば、雨雲など、水蒸気を含む大気が存在しない月面においてはマイクロ波のエネルギー減衰が少ないため、宇宙太陽光発電エネルギーを導入しやすい可能性があります。
地球よりも大気の薄い火星でも同様に、このシステムは導入しやすい可能性があります。
火星はこの薄い大気のために、探査飛行機を飛ばす場合、その機体重量を地球の33分の1近くまで落とさなければなりませんが、宇宙太陽光発電による無線エネルギー供給を導入できれば電源ユニットを最小限に抑えることができるため、その活躍が期待できます。
また、宇宙太陽光発電を電柱のように経由して日光の届かない位置で活動する探査ローバー等へのエネルギー供給が可能になるかもしれません。
月や火星で活躍する探査ローパーは、太陽光発電で稼働しているため夜時間は基本的に活動することができませんが、このシステムが実現すれば夜の時間帯でもさまざまな調査を行うことが可能になります。
SFのような世界を実現する可能性を秘めたカルフォルニア工科大学の宇宙太陽光発電プロジェクト(SSPP)。その宇宙太陽光発電実証機(SSPD-1)の成果から今後も目が離せません。