原子力発電と核融合発電の違いは「燃料」?
核融合、核、と聞いて原子力発電を連想する方も少なくないでしょう。
そもそも原子力発電(原発)と核融合発電の違いはなんなのでしょうか。
原発はCO2を殆ど排出せず、発電コストも安定しており、環境や経済に優しい発電ができる優秀さを持っています。
同時に、運用する際の放射性廃棄物の管理、非常時に運転が暴走する可能性があり、常に放射能汚染の脅威を抱えています。
一方で、核融合発電はCO2を殆ど排出しないのは勿論、原発で用いているような地球上にある希少な放射性物質を用いずに、水素やヘリウムといった比較的供給しやすい燃料として利用できます。
さらには非常時でも運転が暴走することはなく、放射能の脅威は原発よりも圧倒的に低いと考えられています。
原発と核融合発電、両者のメリット・デメリットを決定付けているものは何なのでしょうか?
核分裂反応も核融合反応も、「原子や粒子をぶつけて、ぶつかる前とは別の原子や粒子が生じると共に莫大なエネルギー(飛び出す粒子の勢い、運動エネルギー)を発生させる」という意味では本質的に起きている物理現象は変わりません。
両者の違いは「ぶつけ合う粒子」=「燃料」にあると言えます。
核分裂や核融合といった核反応では、原子の核にある中性子や陽子の数が組変わり、「反応=衝突」後に生成された粒子質量の”総和”が軽くなります。
そして、このとき失われた質量(質量欠損)がエネルギーに変わるのです。
これがアインシュタインの特殊相対性理論から導かれるE=mc²で表現されます。(E:エネルギー、m:質量、c:光速度)
原子力発電では重い粒子を割って軽い粒子を生成します。このとき生成された軽い粒子の質量の総和は、もとの粒子の質量の総和よりも軽くなっています。
そしてこの失われた質量分がアインシュタインの式に従ってエネルギーに変わるのです。
原子力発電では、例えば燃料にウラン235を用いて、より小さな2つの原子核に分裂させ、このとき複数の中性子(エネルギー)を放出させます。
逆に核融合反応では、軽い原子同士をぶつけて、少し重い原子核を生成します。
ここでは例えば燃料に重水素(D:デューテリウム)と三重水素(T:トリチウム)を用いて、衝突させ、ヘリウムと中性子(エネルギー)を生み出すD-T反応があります。
核分裂と核融合は、分列と融合というプロセスの違いがあるものの、どちらの場合も反応物質(燃料)と生成物質それぞれの”総和”で比較したとき、反応後の質量の方が小さくなっています。
化学反応のような分子の組み換えでは質量保存則が成立していて、反応前と反応後の質量は基本的に同じです。そのため、核反応は化学反応とは本質的に大きく異なります。
(質量欠損、質量を無くす…。時間軸はだいぶ異なりますが、自分の体重を瞬時に軽くできる状態、ダイエットが瞬間的に起きたと考えると、何やらすごいことが起きている気がしますね。)
分裂しても融合しても質量が減って、その分がエネルギーに変わるって変じゃないと思う人もいるかもしれませんが、これはどちらも鉄(Fe)を境に逆転します。
つまり分裂も融合も鉄以降の元素を作る場合は、逆にエネルギーを消費してしまう反応になるのです。そのため星の核融合反応も鉄を作った段階で停止してしまいます。
核分裂反応の問題の1つは、燃料のウラン235自体が放射能を持つことです。
そしてもう1つの問題は制御が難しいという点です。
核分裂反応は、この反応によって生じる中性子がさらに連続的に核分裂反応を引き起こすため、反応を制御することが非常に難しいのです。
ただ、これはきっかけさえ作れれば簡単に反応を継続できることも意味するので、原子力発電のメリットでもあるのですが、原発が危険な原因にもなっているのです。
核分裂反応を制御できなくなるとチェルノブイリ(ロシア)や福島第一(日本)で起きたような極めて悲惨な事故を起こす危険性があります。
一方で、核融合反応の1つD-T反応では、燃料に重水素(D)と三重水素(T)を用いますが、これらは比較的安全です。
重水素に放射能はなく、三重水素はβ線を出す放射能を持っていますが、β線は空気中を5 mm進むだけでも止まってしまう為、持っている放射能は比較的弱いものであると言えます。
また、連鎖反応を起こす心配がないので、チェルノブイリや福島の原子炉の様に甚大な暴走事故を起こす心配がありません。
これが核融合反応のメリットでもありますが、同時になかなか核融合発電が実現できないデメリットでもあります。
核融合反応は核分裂反応に比べて、反応を継続させることがとても難しいのです。
最も引き起こしやすいと考えられている「D-T反応」であっても1億度以上の加熱が必要となります。
加熱され、「原子や中性子、電子といった粒子が途轍もない勢いで入り乱れた状態」=「プラズマ状態」を作り出すことでようやく反応を引き起こすことができます。
「核分裂反応」「核融合反応」で用いられる「反応」という言葉は、どちらも「途轍もない勢いで粒子をぶつけて、割ったり、くっつけて新しい粒子を生成する」といったイメージで捉えていただいて大丈夫です。
核融合反応の場合はこの「反応=粒子をくっつけて新しい粒子を生成する」が非常に起こしにくく、維持するのも一筋縄ではいかないのです。(割るよりくっつける方が難しいというのはなんとなくイメージできる問題でしょう)
このように、膨大な熱をもったプラズマを炉の中に閉じ込め、炉壁の材料が溶けてしまわない様に超伝導コイルによって磁場を加えて炉壁からプラズマを浮遊させた状態を維持して運転します。
そこから、核融合炉から熱を取り出すために、炉の外側には複数段階の熱交換器や冷却材を介して、ようやく熱を蒸気に変換して発電するプロセスに至ります。
加えて、核融合反応で生成される中性子は炉壁に衝突するとその材料を放射化してしまう可能性があり、核融合と言えど放射能の脅威は少なからず存在します。
したがって、核融合発電は引き起こすのも容易ではなく、運転を長時間維持するのも難しい為、実用化に至っていないのです。