相関関係の裏には「脂肪」ではなくむしろ「除脂肪」が隠れていた
アルコール分解速度と体重が相関している。
この驚きの結果を導き出すために、研究者たちは注意深く実験システムを組み立てました。
調査に当たっては21歳から64歳の143人の女性が集められました。
被験者となった143人の中には、肥満解消のため胃切所など外科的手術を受けた19人も含まれています。
研究者たちはこの中から痩せすぎの人などを除いて102人を選別し、BMIに従って3つのグループに別けました。
1つ目はBMIが18.5~24.9の標準体重のグループ、2つ目はBMIが25~29.9のやや太り気味のグループ、そして3つ目はBMIが30以上の肥満グループでした。
またアルコールの分解速度を測定するために研究者たちは、被験者の静脈にアルコールを流し込み、2時間にわたり血中濃度が0.06%に維持されるように調整されました。
そうすると0.06%の濃度を維持するのに追加で流し込んだアルコールの量は、分解速度に等しくなります。
結果、BMIとアルコール分解速度に明らかな関連性があり、肥満の女性は体内のアルコールをより速く分解できることが示されました。
具体的には、標準体重のグループは1時間当たり6g、ふとり気味のグループは7g、肥満のグループは9gとなりました。
普通サイズのビール缶1本(350ml)にはおよそ14gのアルコールが含まれているため、標準体型の女性の場合には全て分解するのに2~3時間かかることになります。
この結果を一見すると、増えた脂肪の量だけアルコール分解能力が上がっているようにみえます。
しかし積み重ねられた研究では、アルコールの分解は主に脂肪組織ではなく肝臓で行われていることが示されており、結果と矛盾するように思えます。
そこで次に研究者たちは、被験者たちの除脂肪体重(脂肪量を除いた体重)を調べてみました。
するとBMIが多い人ほど除脂肪体重が大きいことが判明。
またアルコール分解速度との関係を調べたところ、除脂肪体重が及ぼす影響は72%に達していることが判明します。
つまりアルコール分解速度と本当に関連していたのは除脂肪体重だったのです。
ただ除脂肪体重といっても、骨や筋肉、神経、消化管など含まれる要素は多数に上ります。
そこで研究者たちが着目したのが肝臓でした。
最新の研究では除脂肪体重と肝臓の脂肪部分を除いた容積「除脂肪肝臓容積」に明白な相関関係があることが報告されています。
この除脂肪肝臓容積は肝臓の中でアルコールの分解を行っている部分の総量と一致しています。
そのため研究者たちは、BMIが大きい人がアルコールの分解速度が速くみえるのは、BMIが大きい人は除脂肪体重も大きく、結果的に大きな肝臓を持つ傾向があるためだと結論しています。
さらに減量手術を受けた女性のアルコール分解速度を調べたところ、非常に興味深い結果が得られました。
これまで胃切所や胃バイパスのような減量手術を受けると、アルコール分解速度が遅くなることが報告されていました。
しかし除脂肪体重を介して再度分析すると、減量手術そのものはアルコール分解速度を落とさず、減量手術後に除脂肪体重が減少したときのみアルコール分解速度が落ちていることが明らかになりました。
研究者たちは減量手術によって除脂肪体重が低下すると、肝臓も小さくなってしまう可能性があると述べています。
(※健康的なダイエットでは基礎代謝にかかわる除脂肪体重部分を減らさないことが目指されています)