小型のワイヤレス嗅覚インターフェイスとは
今回香港城市大学が提案したのは、鼻の下に装着できるタイプ(以降デバイス1)とマスク型(以降デバイス2)の2種類のデバイスです。
【デバイス1】
皮膚に直接触れる性質上、柔らかく皮膚に負担がないように工夫されています。
鼻の下という限られた面積であるため、ニオイを作り出す臭気発生機は2つしか装着できず、再現できるニオイは制限されます。
【デバイス2】
マスク型は前者よりもサイズが大きくなりますが、臭気発生機は9つ搭載できます。
この9つの臭気発生機を制御することにより、数百もの種類の臭気を実現可能です。
両者とも鼻から非常に近い位置に臭気発生機を設置できるため、臭気発生からの応答時間は1.44秒という短さを達成してます。
なぜ小型化できたのか
このデバイスはシリコンカバー、臭気発生機、制御を行うための基盤、肌に接する部分を保護するシートなど、複数の層が織りなす多層構造となっています。
薄い基盤には、マイクロコントローラー ユニット (MCU)、Bluetooth モジュール、抵抗、コンデンサなど、デバイスを制御しニオイの発生をコントロールする機器が組み込まれています。
これにより、データをBluetoothでの通信が可能となり、デバイス1では最大2.8m、デバイス2では最大5.9mの無線通信距離を実現しています。
基盤を含め、すべて薄く柔らかい素材を選んだことにより、複数の部品を重ねられ、省スペース化に成功しました。
また、どの素材も柔軟性があるものを選んだことにより、皮膚やマスクの構造に沿って曲げることが可能となりました。
曲げられない基盤を採用すると臭気発生機と基盤は別にしなければなりませんが、柔らかい素材であれば臭気発生機と一体化されたコンパクトな装置になります。
嗅覚インターフェイスの性能
この嗅覚インターフェイスの仕組みは、エタノールにニオイをのせて揮発させることにより、ニオイを感じさせるものです。
そのため、温度が高くなるほどエタノールが揮発しやすくなりニオイは強くなります。
この装置は人間がニオイを感じるのに十分である45℃を超え60℃まで加熱可能で、ニオイを発生させたら十分に人間が感じられるレベルに達しています。
また、ニオイを一度発生させると鼻のまわりにニオイが蓄積することから、前に発生させたニオイと混同し、正しくニオイを伝えられません。
しかし、この嗅覚インターフェイスでは、加熱温度によりニオイの強さを調整し、臭気がこもらないように調節可能です。
「ニオイは残ることから嗅覚インターフェイスとして正しく動作しにくい」という課題も解決しています。
安全性と安定性
この嗅覚インターフェイスは皮膚のそばで使用することから、高い安全性と安定性が求められます。
そこで、デバイスを捻じ曲げるテスト、加熱するテスト、長時間運転したときの発熱テストなどを行いましたが、特に問題が起こることなく安定して使用できることが分かりました。
また、臭気発生機自体は60℃という高温になりますが、皮膚と接する部分の温度はわずか32.2℃で、火傷が起こることもありません。
実用化のためには、より慎重なテストが必要になるとは思いますが、今のところ大きな問題はない状態です。
嗅覚インターフェイスの使い道
こういった小型の嗅覚インターフェイスは今後さまざまな分野で活躍するようになるでしょう。
映画やイベント、仮想空間で活用すれば、より没入感のある体験が可能となります。
娯楽的な使用方法だけではなく、医療や教育現場、メッセージにニオイを添付するなど、相手に対してより詳細に情報を伝えたいときにも役立つでしょう。
小型で着用できるサイズの嗅覚インターフェイスであれば、使い方はより幅広くなります。