軌道閉塞を起こすには些細な宇宙戦争で十分だった
2021年12月の時点で、米国は3000個、中国は500個の衛星を保有しています。
2つ目のシミュレーションではこの2国が本格的な戦闘を宇宙で行い、お互いの衛星の10%ずつ、合計で250個が対衛星兵器で破壊された場合が計算されました。
結果、250個の衛星破壊で追加される1cm以上のデブリの総数は2550万個であると判明。
これまでの衛星打ち上げなどで作成された1cm以上のデブリの数がおよそ90万個であることを考えると、大国間の宇宙戦争はデブリの量を2700%増加させる計算になります。
(※2007年に中国によって行われた1度の対衛星兵器テストによって、1cm以上のデブリの総数は一気に30%も増加しました)
しかし戦争による膨大なデブリ生成は、その後に続く破局に比べれば僅かなものでした。
上の図は、宇宙戦争が起きて250個の衛星が破壊された場合の「生き残った衛星数」「破壊された衛星数」「デブリの総量」を示しています。
宇宙戦争は「10年目」のラインで勃発し短期間(1年ほど)で収束したとされました。
左の「生き残った衛星数」をみると、戦争により急激に数が減ったあと、一時的に衛星数が回復している様子がみられます。
これは戦争終結に伴い、両国が失った衛星の補充をしはじめたことを示しています。
しかし奇妙なことに戦争による衛星破壊が起こっていないにもかかわらず、生き残った衛星数は戦争終結から15年以内(タイムラインの25付近)で再び減少しはじめます。
宇宙戦争が終わったにもかかわらず、そして両国が補充の衛星を打ち上げ続けているにもかかわらず、生きている衛星の数が減り、破壊された衛星数(中央のグラフ)が急激に増えていくのはなぜなのか?
その理由は、デブリによる軌道の汚染です。
宇宙戦争によって破壊された250個の衛星から発生した2550万個のデブリが地球軌道を完全に汚染してしまい、生き残った衛星も新たに打ち上げられた衛星も次々に破壊されはじめたからです。
そして新たな衛星の破壊はより多くのデブリを撒き散らし、汚染の度合いを急速に高めていきました。
宇宙戦争後、両国が失った衛星を補充し始めたことで一時的に衛星の総数は回復しますが、発生するデブリと破壊される衛星数は指数関数的に増加していくため、戦後15年あたりで衛星の総数が停滞します。
さらにその後は新規打ち上げが続けられているにもかかわらず、生きている衛星数は急速に減少していきました。
そしておよそ40~50年後になるとデブリの上昇率はほぼ90度に達します。
これは全ての衛星が破壊され、新たに衛星を打ち上げても直後にデブリによって破壊されてしまう状況を意味します。
こうなると、新たな衛星打ち上げは軌道にデブリを追加するだけの行為になってしまいます。
そして人類は宇宙に至る道を完全に塞がれ、GPSも衛星通信も宇宙望遠鏡も、衛星技術を利用していた全ての技術は、ある種のロストテクノロジーとなります。
(※今回の研究では1cm以上のデブリが調査対象になりましたが、現実の地球軌道にあるデブリは小さいものほど数が大きく、大きさ1mm以上のデブリの総数は1億3100万個に及ぶと考えられます)
このような勝者のいない結果について研究者たちは、核戦争における相互確証破壊と類似するものだと述べています。
相互確証破壊は核の打ち合いによって双方が確実に破滅することを意味する言葉であり、それゆえに人類は核戦争を起こせないとの結論に至ります。
同様に、たった250個の衛星が破壊されるだけで地球軌道が完全に塞がってしまうという状況は、宇宙戦争を行う当事国に対衛星兵器の使用をためらわせることになります。
ただ現状、大国同士が戦争を行った場合「敵国の衛星を放置する」という選択肢は絶無です。
衛星は精密誘導兵器やドローン、通信まであらゆる軍事技術の基礎となっており、敵国の衛星を破壊できた側と破壊できなかった側では、その結果がそのまま戦争の勝ち負けを決めてしまいます。
宇宙開発が進めば、小国同士の戦争ですら、開戦第一撃で敵国の衛星を全て破壊するというのが常識になるでしょう。
そうなれば、戦争と衛星破壊がイコールで結ばれることになります。
人類は核戦争を抑止できていますが、戦争そのものを無くすことには成功していません。
そのため研究者たちは、対衛星兵器による軌道の閉塞は避けがたい未来であると結論しています。