「新種」として認定することの難しさ
今回新種認定されたレッドテール・ガラは2000年頃から水族館の商取引などで人気のある魚でした。
それだけ以前から知られていた魚がなぜ、ずっと科学的には未記載の状態になっていたのでしょうか? 水族館は研究機関も兼ねる施設のはずなのに、誰もその事実に気づかないということがあるのでしょうか?
実は、尾の色や形態など、他のアゴヒラ属とは大きく異なる特徴を持っていることから、研究者らもこの魚が科学的に未記載種であることは薄々分かっていたようです。
ところが、生物を「新種」として記載するには、ただ実物が目の前にいればいいわけではありません。
最も時間と労力が必要なのは、科学的な根拠にもとづいて新種と証明することです。
例えば、その野生個体が生息している現地の生態系を調べて、過去の文献を隈なくチェックし、形態や色、各器官の構造がどの記載種とも異なることを明らかにしなければなりません。
また場合によっては、近縁種間との違いを証明するためにDNA解析も行います。
今回のケースでは、レッドテール・ガラの野生個体がどこに生息しているかが分かっていなかったため、これまで科学的な調査ができませんでした。
ある生物を新種として記載するには、自然の生息地で観察する必要があります。
その野生の生息地が見つかっていなかったためにレッドテール・ガラは長い間、新種として記載できなかったのです。
ついに野生のレッドテール・ガラを発見!
しかし今回、米フロリダ自然史博物館(FMNH)の魚類学者であるラリー・ペイジ(Larry Page)氏らにより、ついに野生のレッドテール・ガラが発見されました。
淡水生のアゴヒラ属は、アフリカ西部からトルコ・イランを含む西アジア、中国やインドの一部を含む南アジア、そしてタイやミャンマーを含む東南アジアの河川に広く分布します。
ペイジ氏は2007年以来、魚類調査のために毎年タイの河川を訪れていました。
彼は、レッドテール・ガラはタイの隣国であるミャンマーの水族館でよく取引されていたため、ミャンマーに広く分布しているのではないかと推測していたといいます。
そして最近、タイの国境にも近いミャンマーを流れるアタラン川の支流でフィールドワークをしていたときに、野生のレッドテール・ガラを発見したのです。
これにより、野生下での詳しい生態調査が可能になり、20数年越しに「新種」として記載することに成功しました。
新たな学名はタイの著名な魚類学者であるノン・パニトフォン(Nonn Panitvong)氏にちなんで、「ガラ・パニトフォンギ(Garra panitvongi)」と命名されています。
ではレッドテール・ガラ改め、ガラ・パニトフォンギは具体的にどんな生態をしているのでしょうか?