粒子が沈んだ場所に「目印」が集まってくる
細胞内で粒子が転がるとなぜ重力を感知できるのか?
研究者たちは新しく粒子が転がった場所では何か新しい反応が起こると考え、周囲の細胞膜の様子を調べました。
するとアミロプラストが溜まっている下側の細胞膜には、LZYと呼ばれるタンパク質が集まっていることが判明します。
また植物を横倒しにしたり逆さにしてみたところ、まずアミロプラストが沈み、次いでLZYが元の場所から剥がれ、新たにアミロプラストが移動した場所に近い細胞膜に集まり始めることが明らかになりました。
この結果は、植物たちはアミロプラスト粒子が転がってきた場所に対してLZYタンパク質を使ってマーキングして「こっちが下側」としている可能性を示します。
次に研究者たちはアミロプラストの沈降が起こらない植物の変異体を作成しました。
するとこの変異体ではアミロプラストは重力方向に沈まずにLZYは細胞膜全体にランダムに分布していることがわかりました。
さらにこの変異体に対して光ピンセットを使って細胞内部のアミロプラストを特定の細胞膜(左側)まで引っ張ったところ、細胞膜の左側にLZYが集まってくることがわかりました。
この結果は、植物たちがLZYを使ったマーキングを細胞膜にするかどうかは、アミロプラスト粒子の位置が決めていることを示しています。
(※光ピンセットでは小さな物体の側面を光の圧力を使って圧迫することで、ピンセットのように物体を固定し、移動させることが可能です)
また追加の研究により、LZYの蓄積した細胞膜には植物の正しい伸長を促すオーキシンの制御を行うRLDと呼ばれるタンパク質が集まってくることがわかりました。
以上の結果から、植物たちの重力感知の第一歩は、動物の耳石と同じような粒子の運動から出発するもののそれ以降は動物と違って粒子が沈んだ近くの細胞膜にLZYタンパク質が蓄積し、新たな下側の決定が行われていたのです。
研究では、この新たな下方向の決定にかかる時間も図られました。
研究者たちが植物を135度と大きく回転させると、すぐにアミロプラストの落下がはじまります。
するとアミロプラストが離れた細胞膜からLZYが剥がれ落ちはじめ、15分後には新たなアミロプラストの落下場所に蓄積し始めました。
動物の重力感知はほぼリアルタイムで行われますが、植物の場合は多少のタイムラグがあるのでしょう。
研究者たちは今回の研究により、アミロプラスト粒子が転がった先にLZYタンパク質が蓄積されることが、植物の重力感知の実体であることがわかったと述べています。
近年の宇宙での実験により微小重力環境で育てられた植物は真っ直ぐ育つことができないことが判明しており、宇宙での農業生産において問題になると考えられています。
もし植物が重力を検知する方法が解明され、植物に重力があるように錯覚させる薬の開発や遺伝子改良を施すことができれば、宇宙ステーションでも植物たちをまっすぐに成長させられるかもしれません。