細胞内で重力に引かれて沈んでいく粒子
最も有名な仕組みは、上の図のような、化学物質の濃度的な偏りを使った仕組みです。
同じものを中学の理科や高校の生物の教科書でみたことがあるひとも多いでしょう。
発芽した植物を横倒しに設置すると、茎と根の部分の下側で特定の化学物質(オーキシン)の濃度が濃くなって「茎は上、根は下」のパターンで伸びるようになるのです。
この結果は、植物の上下への伸長は化学物質の濃度によって決められることを示しています。
また近年になってからは、植物にも動物たちの「耳石」に相当する「アミロプラスト」と呼ばれる粒子が存在することも明らかになってきました。
このアミロプラストは植物細胞のなかで糖やデンプンを溜め込む倉庫の役割をしています。
しかし茎の先端や根の先端など特殊な細胞(重力感受細胞)の内部に存在しているアミロプラストは倉庫とは全く異なる役割をしています。
重力感受細胞のアミロプラストは比重が高く、常に細胞の下側に沈むようになっており、植物を横倒しにしたり逆さにすると、新たな下側に向かって沈んでいきます。
細胞内部はドロドロしたゲル状の原形質や液胞によって満たされているため、アミロプラストは比較的容易に沈むことができます。
そのためアミロプラストは動物の耳石のように植物に重力の位置を教える鍵となる存在と考えられています。
つまりアミロプラストが重力に従って動くことが引き金となり、オーキシンのような化学物質の濃度の違いがうまれ、植物たちは「茎は上、根は下」のパターンで伸びることができるわけです。
しかしこの理論には1つ、致命的な弱点がありました。
アミロプラストが重力に従って転がる物理現象と、オーキシンの濃度差のような生化学的反応が発生する「つなぎ目」で、何が起きているかわかっていなかったのです。
たとえるなら、レバーを倒せば酸性液が中和するという仕組みがあったとすると、現在判明しているのはレバーと酸性液の中和という因果関係のみで、途中で何がどうなっているのかは全くわかっていないのと同じです。
そこで今回、基礎生物学研究所の研究者たちは以前から、つなぎ目部分で何が起きているかを調査してきました。