エングラム細胞を強制活性化すると忘れた記憶が蘇る
研究者たちは、似た記憶が忘れやすい現象、つまり「干渉による忘却」を使うことにしました。
似た意味かつ似たつづりを持つ英単語を連続して覚えようとすると、前に記憶した単語を忘れやすくなるのも、干渉による忘却が起きているからです。
今回の研究ではマウスに対して英単語の代りに、物体の位置を連続して覚えさせて記憶と忘却を誘発し、マウス脳内のエングラム細胞の様子を観察しました。
するとマウスが物体の位置を覚えると、脳内に対応するエングラム細胞が出現したことが判明。
また記憶の干渉が発生して忘却が起こると、マウスは覚えていた物体の情報を思い出すように促されても、対応するエングラム細胞を活性化できなくなっていました。
次に研究者たちは忘却した記憶が手掛かりによって蘇るかを調べてみました。
結果、活性化できなくなっていたエングラム細胞が、手掛かりによって活性化できるようになっていることが判明。
また直接的な手掛かりの代りに関連する新しい情報を与えると、エングラム細胞が再編成され、新たな情報に対応した次世代のエングラム細胞が出現しました。
この結果は、ヒントによって記憶を思い出したり脳内で情報が更新される現象を、細胞レベルで説明したものと言えるでしょう。
また興味深いことに、間違いを招くようなヒントを与えられると、エングラムが活性化と同時に変化してしまい、偽りの記憶が新たに形成されたことが判明しました。
この結果は、偽りの記憶は脳内で勝手に作られるのではなく、記憶に関連するエングラムが再活性化する瞬間に作られることを示します。
さらに研究者たちはマウスの脳細胞が光によって活性化するように遺伝子組み換えを行い、同様の記憶の干渉をマウスに対して行いました。
すると忘れた記憶に対応したエングラム細胞を光で活性化すると、マウスは忘れたはずの記憶を突然取り戻しました。
この結果は、たとえ忘却してもエングラム細胞を人工的に再活性化することで、記憶を思い出せることを示しています。
もし将来的にエングラム細胞を安全に活性化できるようになれば、忘れていた懐かしい思い出の多くを回収できるかもしれません。
ですがより興味深い現象は、思い出しやエングラムの再活性化ではなく、それより以前の忘却が発生する瞬間にこそありました。