サプライズで喜びや感謝の度合いは強まるのか?
サプライズはどうして相手を強く喜ばせられるのでしょうか。
これまでの心理学研究では、サプライズが有効な理由について、「その恩恵がなかったら」と想像すると感謝が強くなるからという考えを前提としていました。
例えば、友人から突然のプレゼントをもらった後に、「もしコレ貰えてなかったらどうだったろう?」と頭の中でシミュレーションすることで、喜びや感謝の気持ちが増すというのです。
しかし研究チームが今回、この仮説について検証した過去の文献にあたってみたところ、いずれの研究にも限界があり、この仮説はまだ厳密に検証されていないことが分かりました。
そこでチームは新たに、「もし恩恵がなかったら」と想像することが感謝の度合いにどう影響するかを明らかにすべく調査を開始。
日本の大学生を対象に、サプライズによる恩恵を受ける前後の状況をシミュレーションしてもらう2つの実験セットを設計しました。
実験1:恩恵を受ける前の予期
1つ目の実験は、計219人の学生(平均年齢20.01歳、女性171人、男性48人)を対象に、「恩恵を受けないと事前に予期していた場合の方が、恩恵を受けると事前に予期していた場合よりも、より強い感謝の念を抱く」という仮説を検証しています。
実験ではプレゼントが貰えると期待できそうな状況と、プレゼントの期待はできそうになり状況の2つのシナリオの内どちらかを参加者に読んでもらい、実際プレゼントを貰えた場合の感謝の気持ちについて、回答してもらいました。
シナリオは例えば次のようなものです。(※実際の実験に使用されものではありません)
大学の写真部に新しく入部したあなたは、ある日の活動中に部のリーダーから
1.「うちは新入部員にプレゼントを用意しているんだけど、今回は何も準備していないようだ」と聞かされる(期待できないシナリオ)、
2.「貴方より先に入部したAさんがあなたのために何かを準備しているようだよ」と聞かされる(コントロール条件)。
その結果、事前に「プレゼントは貰えない」と思っていた場合でも、「プレゼントを貰える」と期待していた場合と感謝の度合いは変わらないことが示されたのです。
つまり、サプライズの贈り物でも心の準備ができていた贈り物でも、受け手の感謝の強さは変わらなかったのです。
実験2:恩恵を受けた後の想像
2つ目の実験は、計84人の学生(平均年齢20.06歳、女性62人、男性21人、一人性別不詳)を対象に、「プレゼントを貰った後に、プレゼントを貰えなかった場面を想像する方が、実際にプレゼントを貰えた場面を思い返している場合よりも、より強い感謝の念を抱く」という仮説を検証しています。
具体的なシチュエーションは以下のものです。
図書館に行こうと思っていたときに、今日は閉館日であることを同級生から教えてもらい無駄足を免れた状況と、欠席した授業で配布されたプリントを同級生がもらっておいてくれた状況を想定し、「もし友人が教えてくれてなかったら/プリントを取っておいてくれなかったら」という反実仮想のシミュレーションを行う。
その結果、実験1と同じく、恩恵を受けた後に「その恩恵がもしなかったら」と想像したとしても、感謝の度合いは変わりませんでした。
以上2つの実験から、サプライズの前でも後でも「恩恵がなかったら」と相手が想像したとして、感謝の度合いが高まることはないという結果が示されました。
今回の結果は、人々に好意的に受け入れられているサプライズに一石を投じるものであり、「サプライズ」という方式だけでは必ずしも相手を喜ばせられない可能性を示唆していると研究者は語っています。
この結果はきっと喜んでくれるはず、という渡す側の期待を裏切る結果なため、あまり納得いかないという人も多いかも知れません。
そもそもサプライズの効果を、「その恩恵がなかったら」と想像すると感謝が強くなる、とする前提に納得がいかない人もいるでしょう。
ただ今回の結果について、研究主任の山本晶友(やまもと・あきとも)氏は「サプライズでプレゼントを渡すという周辺的な要素だけに工夫をこらすよりも、“どんなプレゼントなら相手が喜んでくれるか”をよく考える思いやりの方が、重要なのかもしれません」とコメントしています。
確かにサプライズでプロポーズを仕掛けて失敗した人の話も聞くことはあるので、重要なのはどれだけ相手を理解し思いやりを持っているかだというのは納得できる洞察です。
サプライズを仕掛けるときは、それが渡す側の単なる自己満足になっていないか、相手を思っての演出なのか、一度立ち止まってよく考える必要があるかもしれません。
逆に言えば、相手を思いやってすることなら、サプライズのような凝ったシチュエーションなんて用意しなくても、相手は十分に喜んでくれるということなのでしょう。