心停止中に周りの声は記憶できるのか?
臨死体験ではしばしば、患者たちは医師たちの会話や周囲の声を認識し、記憶しているとする報告がされています。
そこで今回の研究では、脳波や酸素濃度を記録しつつ、ヘッドフォンを使って「リンゴ・バナナ・ナシ」の3つの果物の名前が心停止した患者の耳元で繰り返し流されました。
過去の研究では昏睡状態にある人の耳元で果物や都市の名前を囁き続けると、無意識のうちに学習が行われ、目覚めた後にその名前を覚えていることが示されています。
もし臨死体験中の患者が外部の音を認識して記憶できるのならば、生還後に3つの果物の名前を聞いた順で言うことができるはずです。
結果、インタビューができた28人中1人が果物の種類と順番を正しく述べられており、臨死体験中にも一部の患者は外部の音を認識していることが示されました。
また今回の研究は病院内に入院している患者が対称ですが、心停止から心肺蘇生がはじまるまでには、全て5分以上が経過していました。
伝統的な考えでは、脳は酸素不足が発生すると5~10分で死んでしまうと考えられています。
しかし研究では10%の患者が酸素不足の壁を乗り越え、生還することができました。
この結果から研究者たちは「私たちの脳は思ったよりも酸素不足に耐える能力があることを示している」と結論しています。
またこれまで心肺蘇生中には医師たちは患者の意識がなく聴覚が働いていないことを前提にしていました。
しかしこれからは、救いようのない患者に対しても「患者にはまだ声が聞こえる可能性がある」ということを認識し、サジを投げるような発言(※もう助からないぞ、など)は控え、逆に励ますほうがいいでしょう。
というのも、今回の研究とは別に126人の臨死体験を分析したところ、あらゆる生還者において「(臨死体験から)戻ってくる必要がある」という認識が一貫して存在していたからです。
もし医師の心無いセリフで「戻る意思」が失われてしまったとしたら、生還に何らかの影響が出るかもしれません。
一方、最後の別れをしに来た家族に対して、声だけは聞こえる可能性があることを告げるのは、大きな慰めになるかもしれません。
研究者たちは今後、臨死体験の仕組みをより詳細に解明していくとのこと。
もし臨死体験中の患者と脳波を介して会話できる方法が開発できれば、多くの人々が大切な人の言葉を聴けるかもしれません。