「デジタルネクロマンシー」は故人への冒涜なのか
2019年、NHK紅白歌合戦に「AI美空ひばり」が登場し、歌唱したことを覚えている人も多いと思います。
AI美空ひばりは、30年以上も前に亡くなった美空ひばりの歌声や歌唱法を、ヤマハのディープラーニングの技術を活用した「VOCALOID:AI」使用して再現したものです。
このAI美空ひばりには多くの意見が飛び交いました。
感動して涙を流す人もいた一方、「不気味だった」「故人への冒涜である」「本人の意思を無視している」など、批判も多くあったのです。
やはりAIの力で故人を蘇らせるのはタブーなのでしょうか。
しかし、これが大切な身内だったとしたら印象はどうでしょう。
2020年、そんなことを考えさせられるプロジェクトが韓国で実施され、世界から大きな注目を集めました。
VRの中で亡くなった娘に再開した母親
韓国のチャン・チソンさんは、2016年、7歳の娘ナヨンちゃんを病気で亡くしました。
しかし、その3年後、テレビのドキュメンタリー番組内で、ナヨンちゃんが再現されたのです。
ナヨンちゃんは、体型の似た女の子のモーションキャプチャーや、生前に家族が撮影した写真や動画を元に、ディープラーニングを駆使してジェスチャー、声、喋り方が再現されました。
チャンさんはVRゴーグルを装着し、スタジオでナヨンちゃんと感動的な再会を果たしました。
この動画は当時かなり話題になったので見たことがある人もいるかもしれません。
この番組を見た人からは、母親と娘の感動の再会を賞賛する声も多数ありましたが、VRの中での再会が「母親の心をさらに傷つけてしまうのでは?」などの懸念の声も広がりました。
確かにどれだけ娘に触ろうとしても、決して触ることができないその母親の姿には、やるせない悲しさを感じてしまいます。
実際に存在するわけではないAIがデジタル上で再現した「故人との再会は悲しみが続くだけだ」という指摘もあります。
しかし、私たちが仏壇やお墓に向かって、自分の近況報告をすることは決しておかしな行為ではありません。
そのとき私たちの中には、私たち自身の記憶が再現した故人の人格が存在しているはずです。
遺影や墓石に向かってするその行為を、AIが再現した故人に向けて行った場合、それは死者への冒涜となるのでしょうか?