「過酷な時代のミジンコ」と「平和な時代のミジンコ」が化学物質を捉える
ミジンコは、休眠卵(耐久卵)とよばれる低温・乾燥に耐える卵を作ることができ、その卵は環境が整うまで何十年も休眠します。
つまり年月を経た休眠卵に水をかけて孵化させることで、数十年前を生きたミジンコ群を復活させられるわけです。
研究チームは、この特性を利用して、化学物質をよりろ過してくれるミジンコ群を探すことにしました。
彼らは、水が最も汚染されていた時期や、逆に汚染物質が全くなかった時期など、いくつかの時期のミジンコを試すため、1900年、1960年、1980年、2015年の休眠卵を孵化させて、化学物質のろ過テストを行いました。
その結果、「化学物質に対して、未経験者か、非常に経験豊富な者のどちらかが、ろ過においてより良い仕事をしていた」とオルシーに氏は語っています。
次に研究チームは、優秀なミジンコたちの個体数を増やし、研究室で水処理プラントとしてテストしました。
その結果、ミジンコのろ過システムは、水中に含まれる医薬品「ジクロフェナク」の90%、重金属「ヒ素」の60%、除草剤「アトラジン」の59%、工業用化学物質「PFOS」の50%をろ過することに成功しました。
そして、下水処理場と同じ条件である野外環境でも同様のパフォーマンスを発揮しました。
特に注目できるのは、高い蓄積性があり自然界でほとんど分解されないことから「永遠の化学物質」と呼ばれるPFOSの除去率です。
研究チームは、「PFOSを50%除去するものはまだなく、ミジンコのシステムは既存のろ過システムよりも優れています。しかも他のアプローチは非常に大きなコストがかかり、有毒な副産物も大量に生成されます」と主張。
またこの新しい手法であれば、一度導入するだけで、ミジンコのクローン繁殖の能力によって、システムが維持されるというメリットもあります。
加えて高度な水処理プラントが少ない発展途上国にも導入しやすく、遺伝子編集技術などを加えれば、特定の化学物質を標的にするこも可能かもしれません。
今後の進展によっては、私たちがまさに必要としていた「環境に優しく、低コストで、拡張性のある水処理システム」となるかもしれないのです。
「ミジンコのようだ」という表現が、誉め言葉になる日も近いでしょう。