嗅いだ匂いから連想される色に過剰な補足を行う
実験の結果、コントロール条件の無臭の実験室内で作業を行った被験者たちは、PC上に提示された四角形を正確に灰色に調節することができました。
しかし匂いのする部屋で作業を行った被験者たちは、四角形の色の調節がズレてしまう現象が生じたのです。
具体的には、食べ物から連想される色の場合は、レモンは黄色、チェリーは赤茶色、コーヒーは茶色、キャラメルはオレンジ色がかった灰色に調整する傾向が確認されたのです。
しかしペッパーミントに関しては、匂いから連想される典型的な色である青緑色ではなく、赤茶色に調整する傾向がありました。
研究チームはこの匂いから想起される色に無意識に調整が偏ってしまう現象を「過剰補償(Overcompensating)」が生じたと表現しています。
これまでの研究では、匂いによってバナナやリンゴなど果物自体の色の見え方がより想起される色(バナナならより黄色く、リンゴならより赤く)に偏って見えることが報告されていました。
しかし今回の研究では、匂いがすることで全く関連性のない対象(実験では四角形)の色までも変化させる可能性を示唆しています。
つまり、レモンの匂いを嗅いでいるときに、レモンの色だけでなく、周囲の対象の色も変化させているかもしれないのです。
ただ研究チームはこれにより、被験者たちが灰色を作るために、匂いから連想される色と反対方向に強く調整する可能性を予想していましたが、その傾向は確認できませんでした。
この理由はまだ明らかではありませんが、匂いがそこから連想される色と関連する方向へ人の色認識に影響を与えていることは確かなようです。
研究チームは「匂いと色の間の感覚間の結びつきはどこまでの範囲まで及ぶかに関しては、さらなる調査が必要だ」と述べています。
今回の実験で用いられた刺激は、コーヒーやレモンなど、日常的に口にする機会も多いものに限られていました。
しかしパパイヤなどの日常的に遭遇する機会が少ないものや、今まで嗅いだことも見たこともないものに対しても匂いと色に感覚間の結びつきが存在するかは検討する余地があるでしょう。
もしかすると、朝食を食べるときに、コーヒの匂いを嗅ぐことで、いつも目にしている景色の色は異なって見えているかもしれません。
ただこれは非常にささやかな作用であり、私たちが自覚することは難しいようです。