高齢者ドライバーの「自己評価の偏り」が原因か?
本研究は、高齢者ドライバー(65~79歳)2832人の男女を対象に、ADHDの有病率と事故リスクとの関連を調査したものです。
データは米国の5つの施設から収集され、最長44ヵ月間にわたって調査が行われました。
対象となる高齢者ドライバー2832人のうち、ADHDの生涯有病率は約2.6%でした。生涯有病率とは、疾患や症状に一度でも罹患したことのある人の割合です。本研究では「ADHDと一度でも診断された経験がある高齢者」に該当する人々を指しますが、ここでは簡潔に「ADHDを持つ高齢者」と表現します。
研究では、ADHDを持つ高齢者と、それを持たない高齢者とを比較分析しました。
結果、ADHDを持つ高齢者は、そうでない高齢者に比べて、以下の運転事情にあることが明らかになりました。
- 急ブレーキをかけるリスクが7%高い
- 交通違反をするリスクは約2倍
- 自動車衝突事故を起こす確率は74%高い
ADHDを持つ人々は、自己評価や自覚がうまくできないため、自己の運転能力を過大評価する傾向があります。
研究者らは、ADHDを持つ高齢者の場合、年齢とともに実行機能(計画力や判断力)が低下することで、運転能力を過大に評価する傾向が強まる可能性があると考えています。
そして、この運転能力を課題に評価する傾向、すなわち自己評価の「偏り」が、運転リスクを高める原因となるのではないかと指摘しています。
このように調査の結果は、ADHDを持つ高齢者ドライバーに有利とはいえない結果を示すものとなってしまいました。しかし、研究者らは、高齢者やADHD持つ人々に運転を諦めさせようという意図をもった研究ではないことを強調しています。
むしろ「ADHDを持つ高齢者が運転する際の事故リスクを軽減するために、高齢者におけるADHDの診断と臨床管理の改善が必要である」と提言しています。
これは問題を認識し、適切な介入(サポート)を行うことで、高齢者でもADHDを持つ人でも、より安全に運転できる可能性が高まることを示唆する内容です。
生活に自動車が必要な人に対して、免許を返納させるという対策を取っても思うように効果を上げることはできません。
重要なのはより詳しい問題点を洗い出し、それを適切に改善・サポートできるシステムを生み出すことです。
警察庁が2023年に発表した調査によれば、2022年末の日本国内の65歳以上ドライバーは、1,946万人です。これは、国内の運転免許保有者8184万人の約2割を占める数字です。高齢者の安全運転は今後ますます重要な課題となるでしょう。
高齢者が安全に運転できるよう、運転における問題を多角的に理解することは、日本においても非常に重要です。今後の関連研究に期待しましょう。