ADHD傾向のある人は事故を起こしやすい傾向がある
「発達障害(神経発達症群)」とは、人が成長する過程で特定のスキルや知識の習得に「偏り」が生じ、日常生活に困難を感じる状態です。
ADHD(注意欠如・多動性障害)は、この発達障害の一つで、主に「不注意、多動性、衝動性」の3つの特性で認識されます。
この疾患は、一般的には子供時代に診断されることが多いですが、大人になっても症状が続く場合があります。
大人のADHDでは、これらの特性が日常生活や職場でのパフォーマンスに影響を与える可能性があります。多動性が目立たなくなっても、内面的な不安や緊張感が残ることが多いのです。
たとえば、ADHD傾向のある人には、日常生活で「安全を確認する前に行動してしまう」、「行動途中でボーッとしてしまう」「ちょっとした音で気が散る」「優先順位を付けられず複数の作業を並行してできない」といった特性がみられます。
このような特性は、運転の際には不利に働きます。
2000年に発表されたニュージーランドの研究では、ADHDの診断を受けている人は、交通事故や違反を繰り返すことが多く、免許取り消しなどの問題を多く起こす傾向があると報告されています。
また、2013年の米国の調査では、ADHDを持つ青少年は運転経験の月数が少なく、運転違反の割合、および速度変更や車線変更が多いなど運転中のリスクが高いことが示されました。
日本の研究も進んでいます。2015年に日本の研究者らは、交通事故を頻繁に起こす人の行動特性にADHD傾向があり、衝動性を抑えるための薬を処方したところ、事故が激減したことを報告しました。
このように、ADHD傾向と自動車運転の関係は、複数の研究により示されていますが、これらの対象は主に子供や若年成人に限られており、昨今注目が集まる高齢者ドライバーを対象とした研究はほとんどなかったのです。
米国コロンビア大学公衆衛生大学院(Columbia University School of Public Health)の研究者らは、高齢でADHD傾向のある人に焦点を当てて調査を行いました。
結果、ADHDを持つ高齢者は、そうない高齢者に比べて、交通事故に巻き込まれたり、運転関連の違反をする可能性が2倍以上高いことがわかったのです。