ラットにPTSDを発症させるホルモンを特定
最初に研究チームは、「コルチゾール(糖質コルチコイドの一種)に対する反応が鈍くなったヒト」の模倣を、動物であるラットで行いました。
ラット版のコルチゾールである「コルチコステロン(こちらも糖質コルチコイドの一種)」への反応が鈍くなるよう、遺伝子操作したラットを作り出したのです。
次にチームは、この遺伝子操作ラットの脳領域の体積を測定しました。
さらに特定の合図で恐怖反応を起こす(怖い体験が脳に刻まれる)ようラットを訓練し、睡眠パターンや脳活動なども測定。
これにより糖質コルチコイドレベルがPTSDの症状とどのように関連しているか分析しました。
その結果、糖質コルチコイドに対する反応性の低下が、「恐怖をいつまでも思い起こすこと(今回はオスのみ)」「海馬(長期記憶と記憶の想起に関連する脳領域)体積の減少」「レム睡眠における睡眠障害」などを引き起こすと判明しました。
これらすべてはPTSDと関連付けられてきた障害です。
(例えば、レム睡眠は記憶の定着と関連しており、PTSD患者はレム睡眠中に悪夢を見るなど睡眠障害を抱えることがあります)
加えて研究チームは、実験体ラットが抱える恐怖を軽減させるために、人間の認知行動療法に相当する治療をラットに施し、「コルチコステロン(糖質コルチコイドの一種)」を投与しました。
その結果、過剰な恐怖とレム睡眠における睡眠障害が後退し、脳内ストレス関連の神経伝達物質レベルも正常に戻ったようです。
これらのことから、ラットにおいて、糖質コルチコイドレベルの低下とPTSD症状は互いに関連しており、因果関係があると言えるでしょう。
今回の研究は、人間が患うPTSDの治療や予防の新たな可能性を開くものとなりました。
私たちは、トラウマ体験を完全に避けることはできません。誰もがその症状に悩まされる可能性があるのです。
しかし、今回の研究成果はトラウマ体験後の措置によって、つらい体験で長く苦しむことがないよう、人々を解放してくれるかもしれません。