概日リズムは15℃で止まり、35℃で再開した!
これまでの研究では、生きたまま細胞の機能を観察できる「光イメージング技術」を使い、数日〜週レベルの長い期間観察することで、概日リズム中枢である視交叉上核のメカニズムを調べてきました。
今回はさまざまな温度で概日リズムを調べるため、温度制御チャンバーを用い、マウスとハムスターから採取した視交叉上核の活動、特に「時計遺伝子」と「細胞内カルシウム」の概日リズムを計測しています。
その結果、視交叉上核の時計遺伝子と細胞内カルシウムの概日リズムは、22℃〜35℃の温度ではリズムを刻み続けることが分かりました。
ところが、15℃程度の低温にさらされると活動を停止してリズムが見られなくなることが判明したのです。
また驚くことに、15℃の低温から35℃付近の温度に戻すと、両方の概日リズムの時刻がリセットされて、再び時を刻み始めることが確認されました。
このように、温度に応じて概日リズムが「ストップ」と「リスタート」を繰り返すことは今まで知られていません。
さらにデータを分析すると、15℃では細胞内カルシウム濃度が上昇した状態でリズムが停止していることを発見。
それと同時に、35℃への復温後には、概日カルシウムリズムが速やかに安定なリズムを回復するのに対し、時計遺伝子のリズムは数日かけて次第に概日カルシウムリズムに追随するようにリズムを回復させていました。
これについてチームは、細胞内カルシウムリズムが時計遺伝子の活動リズムを制御していることを示しており、概日リズムの働きにとっては、時計遺伝子のみならず細胞内カルシウムも重要であることを意味すると話しています。
以上の結果は、長年の謎であった「冬眠中に概日リズムは動いているのか、止まっているのか」という問いの答えを提示するものです。
チームはこれを受けて、下のようなユニークな研究イメージのイラストを公開しました。
これはルイス・キャロル著『不思議の国のアリス』に登場する「狂ったお茶会」のシーンを模したものです。
テーブル奥の寒い冬の季節にいるネズミたちは、冷たいお茶を出されているが眠っており、時計は止まっています。
他方で、テーブル手前の暖かい春の季節にいるネズミたちは、目を覚まして暖かいお茶を飲んでおり、同じ時刻で時計が動いています。
今回の研究結果を一目でわかりやすく表現した愉快なイラストですね。
チームはまた、本研究の成果が冬眠のメカニズムを理解するのに大きく貢献するものと期待しています。
今後は、極限環境を生き抜くための生存戦略である「冬眠」をさらに深く探究することで、「生命とは何か」という命題に挑んでいきたいと話しました。
参考文献の参照先について、主研究者である自然科学研究機構 生命創成探究センターに変更を行いました。