星の位置を示すパーツが製造年代を明らかにする
エマニュエル・ダヴースト氏は、フランスの都市トゥールーズにあるミディ=ピレネー天文台(OMP)に所属する天文学者です。
最近彼は、同じくトゥールーズにあるポール・デュピュイ美術館に保管されたアストロラーベを分析しました。
彼が特に着目したのは、アストロラーベのパーツの1つであり、恒星の位置を示す「リート」です。
このリートには、34個の針があり、同じ数だけの恒星の位置を示しています。
そしてなんと彼は、リートの分析により、このアストロラーベがいつ製作されたのかを明らかにすることができました。
製造年が彫られているわけでもないのに、どうしてそのようなことが可能なのでしょうか?
地球の自転軸は常に同じ方向を向いているわけではなく、下図のように約23.4°傾いています。
これを歳差運動と言いますが、この運動により、「春分点(すべての恒星の位置の基準となる点)」の位置は定期的に変化します。
また恒星自体も、固有運動と呼ばれる変化により、非常にゆっくりとその位置(天体を観測した際の座標値)を変えています。
つまり、時間の経過により恒星の座標は変化しており、この違いが特定のアストロラーベがいつ製作されたかを知るカギとなるようです。
今回、ダヴースト氏は、1400年から1700年の間の恒星の座標を50年ごとに算出し、ポール・デュピュイ美術館にあるアストロラーベの34点の座標と比較しました。
その結果、このアストロラーベが作られたのは1550年である可能性が高いと分かりました。
このように、天文学を用いた歴史調査が可能だという点も、アストロラーベが持つ魅力の1つなのです。
もし、古代のナビゲーション機器である「アストロラーベ」を目にする機会があるなら、ぜひ、その精巧さやデザインの美しさ、そして天文学における歴史の深さを感じ取ってみてください。