肝吸虫はどうやってヒトまで辿り着くのか?
肝吸虫は、日本・中国・台湾・朝鮮半島およびベトナムを中心とする東南アジアに広く分布する寄生虫です。
これまでの研究で、彼らの生活サイクルは詳細に解明されています。
まず、肝吸虫の卵は淡水に生息する小さな巻貝であるマメタニシに食べられることで、その消化管内で孵化します。
この最初の段階が「ミラシジウム幼生」です。
ミラシジウムは第1中間宿主であるマメタニシの体内で変態して「スポロシスト幼生」となります。
このスポロシスト幼生がさらに成長して口と消化管を持ったのが「レジア幼生」です。
レジア幼生はマメタニシの体内で食物を摂取しながら成長し、遊泳能力を持つ「セルカリア幼生」となります。
セルカリア幼生になるとマメタニシの体外に出て水中を泳ぎ始め、第2中間宿主となる淡水魚のウロコの間から体内に侵入し、次の寄生生活へと入ります。
ターゲットとなる淡水魚は、コイ科を中心にフナやコイ、ウグイ、モツゴ、ホンモロコなど約80種に達します。
これら淡水魚の体内で成長したものを「メタセルカリア幼生」と呼び、魚ごと食べてしまうことで終宿主であるヒトやイヌ、ネコなどに寄生するのです。
ヒトの場合は、生のままや加熱不十分の川魚を食べると感染リスクが高まります。
その後メタセルカリアは終宿主の小腸で幼虫となり、胆汁の流れを遡って胆管に入り、肝臓内の胆管枝に定着。
23〜26日かけて成虫となります。
成虫は平たい柳の葉っぱのような形をしており、体長10〜20ミリ、幅3〜5ミリ程度です。
成虫は交尾を終えると1日に約7000個もの卵を産み始めます。
これらの卵は寄生虫の部類では最小であり、幅15〜30マイクロメートルほどしかありません。
また卵は終宿主の中では孵化せず、胆汁とともに十二指腸に流出し、最終的には糞便とともに外界へ出て水中に入り、またマメタニシに食べられるまで浮遊し続けます。
寄生されると症状はある?
実は寄生した成虫の数が少数であれば、ほとんど何の害もなく、目に見える症状はありません。
しかし成虫の数が胆管枝を塞いでしまうほど多数になると、胆汁の流れを止めたり、成虫の動きによる胆管壁への刺激によって慢性炎症をきたす恐れがあります。
それが原因で「肝硬変」になるリスクが高まり、そうなると食欲不振や全身の倦怠感、下痢、腹部の膨張、それから腹水や黄疸、貧血を引き起こします。
また成虫の寿命は20年以上に達するため、早期の発見と対処が必要です。
今回の症例では、肝吸虫の数がまだ少なかったため、男性には肝吸虫の寄生を原因とする症状は出ていませんでした。
そのため、男性は無事にすべての肝吸虫が取り除かれ、抗寄生虫薬を処方されて事なきを得ました。
また大腸がんの腫瘍の除去にも成功し、現在は化学療法を開始しているといいます。
男性がなぜ肝吸虫に感染したのかは不明ですが、その主な寄生ルートは上述した通り、生あるいは加熱不十分の川魚を食べることにあります。
日本でも肝吸虫への感染リスクは十分あるため、もし川魚を食べる機会があるなら、しっかり加熱することを忘れないようにしましょう。
そうでないと、お腹の中で今回見たような寄生虫が大量に増殖して蠢くことになってしまうかもしれません。