冬時期になると北へ数千キロも移動する
アデリーペンギン(学名:Pygoscelis adeliae)は、南極大陸に生息する中型のペンギンです。
体長60〜70センチ、体重5キロほどで、目の周りを囲む白いアイリングが最大の特徴となっています。
流線型のボディは熟練したスイマーの証であり、1回の採餌で約300キロも往復するほど泳ぎが上手です。
南極の初夏にあたる10月頃になると海岸付近の岩場の繁殖地に集まり、大規模なコロニーで巣作りを行います。
反対に繁殖シーズンではない冬時期に入ると、日光や食料を求めて、北の開けた周辺海域へと数千キロの旅に出ます。
(南極の季節はおおよそ、1月が夏で、8月が冬です)
そして春先になると、再び南下して繁殖地へと戻ってくるのです。このとき、アデリーペンギンたちは往復で1万2000キロ以上の大移動を行っています。
その一方で、渡り鳥のように空を飛べないペンギンたちが、どのようにこれほどの長距離を移動しているのかがよく分かっていませんでした。
泳ぎが上手いといっても、すべての移動工程を泳ぎで賄うのはエネルギー的に不可能です。
そこで研究チームは、南極海のひとつであり、太平洋に向かって開けた「ロス海(Ross Sea)」に生息するアデリーペンギンのコロニーを対象に調査しました。
北上する流氷をボート代わりに?
チームは1996年以来、ロス海に暮らすコロニーの大規模調査を続けています。
今回は87羽のペンギンに小型のトラッキング装置を付けて、3年間にわたる計146回の季節移動を追跡しました。
さらにこのデータと合わせて、南極周辺の流氷の動きを遠隔で記録した衛星データも用いています。
その結果、アデリーペンギンたちは冬期移動にあたって流氷の北上を有効活用していることが分かりました。
ペンギンたちは4月〜10月にかけて平均1万1318キロを移動しており、移動の平均速度は西側のコロニーが0.71 m/s、東側のコロニーが0.76 m/sとなっています(人の歩行速度は平均1m/s)。
ペンギンたちは6〜8月の冬時期になると北へ移動していました。
そしてこのとき、流氷に乗ったペンギンほど、よりスピーディーかつ遠距離への北上に成功していることが確認されたのです。
流氷の動きは明らかにペンギンたちの長距離移動をサポートしていました。
その一方で、徐々に暖かくなる9〜10月頃になるとペンギンは南下を始めますが、このとき、多くペンギンが北上する流氷に逆らうため、移動速度が遅くなる傾向が見られています。
ただ、ロス海には時計回りに循環する海流があり、太平洋側へと北上する流れとは別に、繁殖地へと南下する流れを利用して、ペンギンたちが帰還を容易にしていることも示されました。
以上の結果から、アデリーペンギンたちは北上する流氷を一種のボート代わりに使うことで、冬時期の長距離移動を可能にしていることが分かりました。
この知見はアデリーペンギンの冬の生態を理解するだけでなく、今後の保全活動にも役立つと思われます。
というのも過去10年間は温暖化の影響により、ロス海の流氷のサイズや範囲が記録的に低くなっているためです。
もしこのまま流氷が失くなり続ければ、アデリーペンギンの冬期移動が困難になり、種の存続や繁栄も危機的状況に陥ると懸念されます。
アデリーペンギンを守るには、彼らだけでなく、彼らが活用する南極の資源全体も考慮しなければならないでしょう。