「赤のクオリア」私とあなたの赤は違う可能性が高い
「私の赤」と「あなたの赤」は違うのか?
謎を解明するため研究者たちは、正常な色覚を持つとされている成人男性738人の網膜に対して錐体細胞の比率を網膜電図で測定しました。
(※網膜を含む眼球は死後に提供されたものを使用しました。また男性で調査したのは錐体細胞の色覚遺伝子がX染色体上にあるため、女性だと2種類のX染色体を調べる必要があるぶん複雑になるからです)
結果、上のグラフの示すようにM錐体に対するL錐体の割合は平均で59.1%となったものの、個人間でもバラツキが非常に大きいことが判明します。
実際、最も比率が低い個人と最も大きい個人の間では、L錐体の比率は5倍以上も差がありました。
(※正規化されると100%を超える値がいくつか出てくるものの、直感的にバラツキの大きさを感じられるグラフです。)
赤を検知するL錐体の比率がここまで大きい場合、脳に届けられる赤の信号が個人間で大きく異なり、同じ赤いリンゴを見ても、赤さの見え方が異なってくる可能性があります。
またバラツキの原因となる遺伝子を調査したところ、レチノイン酸による信号の仲介役となるNR2F2遺伝子のバリエーションに関連していることが示されました。
このことは同じ遺伝子を引いている家族同士ならば比較的「同じ赤」である可能性が高いことを示します。
研究者たちも「正常な視力を持つ人たちも、お互い僅かに異なる色を見ることになる」とし、バラツキにかんしては「もし同じバラツキが腕の長さを決める遺伝子に起きていたら長さの違いに驚くだろう」と述べました。
M錐体とL錐体の生成されるメカニズムを調べる研究から、L錐体の比率の個人差が発見され、長年にわたるクオリアの問題に新たな見解が加わったのは興味深いと言えます。
研究者たちは錐体の生成メカニズムを調べることで将来的に、視覚異常や色覚異常の問題を抱える人々を助けられるだろうと述べています。